公開日: 2026-02-10
近年、海運市況の変動や資源価格の動きにより、海運株は再び投資家の注目を集めています。特に、好調な業績を背景とした高い配当利回りは、インカム投資を重視する投資家にとって大きな魅力となっています。こうした流れの中で、日本を代表する海運大手である日本郵船と商船三井は、しばしば比較対象として取り上げられます。
一見すると両社は同じ「海運株」として括られがちですが、実際には事業構成や収益源、市況への依存度には明確な違いがあります。そのため、値動きの特徴や業績の安定性、投資スタイルとの相性も異なります。
本記事では、日本郵船と商船三井を単純に優劣で比較するのではなく、それぞれのリスク特性や投資向きの性格の違いに注目し、「今、日本郵船と商船三井のどっちが自分に合った投資先なのか」を判断するための視点を整理していきます。

日本郵船とはどんな会社か
日本郵船は、日本最大級の総合海運会社で、コンテナ船や自動車専用船、LNG船といった海運事業に加え、航空貨物や陸上物流など幅広い分野を手がけています。特にコンテナ船事業の比重が高く、世界の物流動向や運賃市況の影響を受けやすい点が特徴です。
そのため、好況期には利益が大きく伸びやすい一方で、市況が悪化すると業績の振れ幅も大きくなりやすい傾向があります。近年は好業績を背景に、積極的な配当や自社株買いなど、株主還元を重視する姿勢を見せており、高配当銘柄として注目されています。
投資家目線で見ると、日本郵船の強みは収益力の高さと市況回復時の爆発力にあります。一方で、海運市況への依存度が高く、業績や配当が安定しにくい点はリスクとして意識しておく必要があります。

商船三井とはどんな会社か
商船三井は、日本を代表する大手海運会社の一つで、LNG船やドライバルク船、原油・エネルギー関連輸送などを主力事業としています。特にLNG船を中心としたエネルギー輸送の比重が高く、長期契約に基づくビジネスモデルを多く持っている点が特徴です。
このため、コンテナ市況の影響を強く受ける企業と比べると、業績は比較的安定しやすく、景気変動に対する耐性もあるとされています。配当についても、短期的な市況より中長期の収益力を重視した姿勢が見られ、持続性を意識した株主還元を行っています。
投資家の視点では、商船三井の強みは収益の安定性と中長期での見通しの立てやすさにあります。一方で、市況が急回復した局面では、日本郵船ほどの利益拡大が見込みにくい点は、成長性の面での弱みといえます。

業績・財務の比較ポイント
1. 売上・利益の安定性
日本郵船は2025年3月期に売上高約2兆5.887億円、営業利益約2.108億円、経常利益約4.908億円と増収増益で好調な結果を残しました。特に経常利益の伸びが大きく、純利益も約4.777億円と前期比で大幅増でした。
商船三井も同じ期に増収増益で、経常利益約4.197億円と高水準でしたが、日本郵船にはやや及ばない規模感です。
直近の業績では、日本郵船は2026年3月期の中間までで収益・利益が前年割れとなっている一方、商船三井も今期見通しでは減益予想が出ています(市況の変動が影響)。
2. 市況変動への耐性
両社ともコンテナ運賃や燃料価格、世界貿易動向に左右されやすい構造ですが、日本郵船はコンテナ船事業の比重が高く、海運市況の好不調の影響を受けやすいとの指摘もあります。
商船三井はLNG・エネルギー関連輸送などの比重が大きく、長期契約や多角化で比較的安定しやすいとの見方もあります。
3. キャッシュフローと財務体質
日本郵船は2025年3月期で営業キャッシュフローが約5.100億円と堅調で、借入金の返済や投資に対応できる水準です。自己資本比率も約67.6%と比較的高く、財務基盤は健全です。
商船三井は自己資本比率が約53.9%と日本郵船より低いものの、総資産の規模は大きく、利益剰余金も増加傾向にあります。
4. 不況時に強いのは日本郵船と商船三井のどっちか
日本郵船は規模と利益水準では優位ですが、市況依存の高さがリスクになることがあります。一方、
商船三井は事業ポートフォリオに幅があり、LNG・エネルギー輸送などが市況変動のショックを緩和する可能性があります。
いずれも2026年3月期見通しでは減益予想が出ており、不況・市況悪化時の利益耐性は高くない点は共通の留意点です。
配当・株主還元で比べる(最新情報)
1. 配当利回りの水準
日本郵船は2025年3月期の予想年間配当が約310円、配当利回りは約6.1%前後と高水準です。これは東証プライム平均を大きく上回る利回りとなっています。
商船三井も同じ期の配当で年間340円程度、利回り約6.4%前後という数字が出ており、こちらも高配当株として注目されています。
→ 両社とも「高配当株」の特徴を持ち、利回りだけで見ると大手海運株の中でもトップクラスです。
2. 配当の継続性・ブレやすさ
日本郵船は直近で増配を発表し、配当利回りを引き上げています。配当は業績連動ですが、中期的には配当性向30%前後を目安とする方針が示されています。
商船三井も配当性向を引き上げ、配当利回りの高さを維持しています。また、累進配当導入の検討など、長期投資家向けの配当安定化策も議論されています。
→ ただし、海運業は業績の変動が大きいため、配当は業績市況に連動しやすいという特徴は両社共通です。
3. 減配リスクの考え方
海運株は利益が大きく変動する業種であり、市況が悪化すると利益減少・配当減額リスクもあります。両社とも配当性向を一定の範囲にとどめ、急激な減配リスクを抑える方針ですが、市況次第の面は否めません。
4. インカム投資向きなのはどちらか
利回りだけを見ると商船三井、日本郵船ともに高水準で、どちらもインカム投資として魅力的です。
配当利回りや配当性向の安定性では、商船三井がやや安定志向、累進配当政策の検討など長期配当重視の動きが見られます。
一方、日本郵船は増配幅が大きく、短期的な配当利回りが高い傾向が続いている点が魅力です。
成長性・将来性で比べる

【1)LNG船・次世代燃料への対応】
両社とも世界的なLNG需要の拡大を見据え、LNG運搬船・LNG燃料船の拡大を進めています。世界のLNG消費量は長期的に増加が見込まれており、市況の追い風になる可能性があります。
日本郵船(NYK):2028年度までにLNG運搬船を89隻から約130隻以上へ拡大する計画です。環境規制の強化も追い風になっています。
商船三井(MOL):同様にLNG船隊の拡大を進めており、2030年代にかけて世界最大規模のLNG輸送体制を目指しています。
【2)脱炭素戦略・クリーン燃料技術】
海運業界は国際海事機関(IMO)の2050年ネットゼロ目標など、環境規制の強化圧力を受けており、脱炭素対応は成長戦略の重要ポイントです。
日本郵船は脱炭素化に向けてアンモニア燃料船やバイオ燃料の研究・試験運航、メタン排出削減の国際イニシアティブ参画など、環境技術の実装に取り組んでいます。
商船三井も「環境ビジョン2.2」のもと2050年ネットゼロを目標に掲げ、LNG燃料船、アンモニア燃料船の設計・基本設計取得、フェリー等でLNG燃料採用、次世代燃料プロジェクトを進めています。
→ 商船三井はアンモニア燃料船の基本設計取得や、国内外での燃料供給チェーン構築に向けた合意締結など具体的な環境戦略の進展が見られます。
【3)中長期の事業ポートフォリオ】
両社とも海運事業を中心に据えつつ、LNG輸送・エネルギー関連・脱炭素ソリューション提供へシフトしています。
海運の根幹である貨物輸送は引き続き主要事業であり、LNG・LPG・アンモニアなど新燃料の輸送ニーズの拡大が長期トレンドです。
一方、国際的な温室効果ガス規制の強化や顧客企業の脱炭素要求から、従来燃料依存の低減や次世代エネルギー供給網への参画は、競争力維持・成長の鍵になります。
【4)世界経済・資源価格との関係】
海運業は世界貿易量・資源価格・エネルギー需給動向と密接に関連します。
LNGは発電・輸送用としての需要増が見込まれており、輸送量増加は長期的な収益源になります。
ただし、船舶燃料・建造コストや船舶市況は世界経済の成長鈍化・資源価格の変動によって影響を受けるリスクもあります。
【5)5年・10年視点で見た優位性】
日本郵船はLNG船の積極的拡大により、LNG輸送市場でのシェア拡大が期待される一方、脱炭素対応の実装速度が評価点です。
商船三井は、環境ビジョンに沿った具体的なプロジェクトやアンモニア燃料輸送の体制構築、幅広い燃料対応設計の進展という点で、中長期の収益安定化・成長性の観点から評価されます。
どんな人にどっちが向いているか
1. 日本郵船(NYK)は次のような投資家に向いて:
収益の成長力や規模感を重視したい人
2025年3月期では売上・利益規模ともに商船三井を上回る結果となっており、事業規模の大きさが強みです。これは海運大手としての総合力の高さを示しています。
短期的な業績好転や値動きを狙いたい人
コンテナ船や物流事業で市況の改善局面が来れば、利益の伸び幅は大きくなる可能性があるため、短〜中期での株価上昇を狙う戦略にも向く側面があります。
株主還元(配当+自社株買い)を重視する人
配当利回りが高いだけでなく、大規模な自社株買いも積極的に行っており、株主価値の向上を意識した取り組みが続いています。
要するに:
収益成長のポテンシャルを重視しつつ、市況回復時の利益拡大や株主還元策も重視したい投資家に向いています。
2. 商船三井が向いている投資家像
商船三井(MOL)は次のような投資家に向いています:
安定性・中長期視点で投資したい人
海運事業の主力をLNG船やエネルギー関連輸送に置き、市況変動の影響をやや緩和するバランスの取れたポートフォリオを持つ傾向があります。特にLNG船隊や環境対応技術(次世代燃料シフト)の取り組みが中長期の競争力につながると評価される側面があります。
配当の継続性に関心がある人
配当は高配当水準(年率ベースで利回りが比較的高い)は維持されているものの、市況悪化時の変動がやや小さめであるという評価もあります。
景気変動リスクの分散・守りの姿勢を重視したい人
日本郵船ほど利益規模は大きくないものの、全体のバランスや耐久性を重視したい投資家には向きやすいです。
要するに:
中長期で安定性や配当の継続性を重視しつつ、環境対応など成長余地も考えたい投資家に向いています。
3. 「両方買う」という選択肢の考え方
両社とも海運という業種の特性(市況依存、需給変動リスク)が共通しており、どちらか一方だけに偏るよりは両方を組み合わせる選択肢も有効です。
リスク分散効果
収益のドライバーが一部異なるため、片方の事業領域の弱さをもう片方が補う可能性があります。
ポートフォリオ全体の安定性向上
海運セクターへの投資として、日本郵船の成長性+商船三井の安定性という組み合わせが、投資全体のバランスを取る効果があります。
結論例:
中長期投資家であれば、両社を一定比率で保有することで、市況に左右されるリスクをやわらげつつ、両社の強みを享受する戦略が成立します。
4. 市況次第で判断が変わるポイント
海運株は世界貿易動向や運賃市況、燃料価格、資源需給の変動と密接に連動します。
市況が改善する局面では、営業利益の伸びやすい日本郵船がややパフォーマンス優位になる可能性。
市況が停滞または悪化する局面では、ポートフォリオの構造や安定配当を重視する商船三井が相対的に守りになる可能性。
判断のポイント:
市況回復の期待が大きい/輸送需要が拡大傾向 → 日本郵船の成長ポテンシャルを評価
景気不透明感や価格下落リスク強まる → 商船三井の安定性を評価
よくある質問(FAQ)
Q1. 海運株は景気後退に弱い?
海運株は世界貿易量や資源需要と密接に関係しているため、景気後退局面では業績が悪化しやすい業種です。輸送需要の減少や運賃下落が起きると、利益が大きく減少する可能性があります。一方で、日本郵船や商船三井のような大手は、LNG船などの長期契約事業を持っており、中小海運会社に比べると耐性は高いといえます。
Q2. 今は高値掴みにならない?
海運株は市況次第で株価が大きく動くため、短期的には高値掴みのリスクがあります。特に、運賃市況がピークに近い局面では注意が必要です。ただし、長期視点で見れば、LNG輸送や脱炭素関連の成長分野を評価して投資するという考え方もあります。一度に買わず、分散して購入する方法がリスク管理として有効です。
Q3. 配当狙いならどのタイミングがいい?
配当狙いの場合、権利確定日だけを意識した短期売買は注意が必要です。海運株は配当利回りが高い一方で、権利落ち後に株価が大きく下落することもあります。基本的には、
市況が落ち着いている局面
株価が調整しているタイミング
で仕込む方が、中長期の配当投資としては安定しやすいと考えられます。
Q4. 長期保有に向いているのは?
長期保有を前提にする場合、事業の安定性と将来性が重要になります。
日本郵船は業績の振れ幅が大きい分、市況回復時のリターンが期待できます。
商船三井はLNG船など安定収益源を持ち、中長期で比較的見通しを立てやすい特徴があります。
そのため、安定重視なら商船三井、成長重視なら日本郵船、もしくは両社を組み合わせて保有するという選択も有効です。
まとめ
日本郵船と商船三井のどっちが優れているかという単純な比較ではなく、事業構成や収益特性の「性格の違い」で評価すべき銘柄です。日本郵船は市況回復時の成長力や利益の伸びが魅力である一方、商船三井はLNG輸送を軸とした安定性や中長期の見通しやすさが強みとなっています。
そのため、投資判断では「どちらが正解か」ではなく、自分が成長重視なのか、安定・配当重視なのかといった投資スタイルに合うかどうかが重要になります。場合によっては、両社を組み合わせて保有することでリスク分散を図る選択肢も有効です。
なお、海運株は世界景気や運賃市況の影響を受けやすく、業績や配当が大きく変動する点には注意が必要です。短期的な値動きに振り回されず、市況と中長期視点を意識した投資が求められます。
免責事項:この資料は一般的な情報提供のみを目的としており、信頼できる財務、投資、その他のアドバイスを意図したものではなく、またそのように見なされるべきではありません。この資料に記載されている意見は、EBCまたは著者が特定の投資、証券、取引、または投資戦略が特定の個人に適していることを推奨するものではありません。