公開日: 2026-02-04
レアアース(希土類)は、電気自動車(EV)のモーター、風力発電設備、半導体、防衛装備、スマートフォンなど、現代の先端産業に欠かせない重要資源です。特にネオジムやジスプロシウムといった元素は、高性能磁石の材料として需要が急速に拡大しています。
一方で、レアアースの供給は中国に大きく依存しており、生産・輸出政策や地政学リスクの影響を受けやすいです。そのため、レアアース価格は変動が大きく、価格上昇は製造コストの増加やサプライチェーンの混乱を通じて、世界経済や各国産業に直接的な影響を及ぼします。本記事では、こうした背景を踏まえ、レアアースの価格推移とその意味を分かりやすく整理します。
レアアースの価格推移:最新動向(2025–2026)
1.直近の動き(2026年初)
中国レアアース価格指数が上昇トレンド継続
中国希土類工業協会が発表した公式レアアース価格指数(2026年1月26日)は約242.7まで上昇し、2010年基準の2.4倍超となっています。特に重希土類・磁石用途の価格が強く推移しており、供給制約と高い需要が価格を押し上げていることを示しています。
2.中期〜過去の価格動向(2025年)
2025年前半:世界的な価格上昇
2025年は世界的に価格が上昇し、特にNdPr酸化物や重希土類の価格が顕著に上昇しました。需要増と原料供給不足が背景で、特にEV・風力発電向け磁石材料への需要が牽引しました。
2025年中盤:月次での価格調整
一部データでは2025年4月の価格では、月次ベースでの調整局面が観察されています。例えば、ネオジム酸化物は年初来高値から月次で一部下落したものの、前年同月比では依然として高い水準を維持しました。
企業側の値上げ動向
中国の主要レアアース企業は2026年第1四半期に向けた精鉱価格の引き上げを発表しており、過去6四半期連続での価格引き上げが確認されています。これは市場全体の価格上昇傾向を裏付ける動きです。
価格変動の背景要因
需給と産業構造:需要増と供給のひっ迫
レアアースの価格変動の根本には、需要の急増と供給制約という需給構造の変化があります。電気自動車(EV)、風力発電、ロボット・デジタル機器などの分野では、ネオジム・プラセオジム(NdPr)系磁石材料への需要が急拡大しており、今後も成長が続くと予想されています。例えば、EVや高性能モーターに使われる永久磁石の市場規模は2035年に向けて大幅増加が見込まれており、レアアースの供給不足リスクが価格を押し上げています。
一方で、長らく中国の供給に依存している現状では、分離・加工能力の集中が供給ボトルネックとなり、重希土類(Dy、Tb)など特に供給がタイトな品種は価格上昇圧力が強いとの指摘もあります。
こうした需給逼迫と高い需要成長が、レアアース関連価格全体を底堅くしている重要な要因です。
地政学リスクと政策:中国支配と国際動向
レアアース市場では、中国が依然として供給と価格形成の中心にあります。例えば中国は世界のレアアース精錬の大多数を担っており、この供給集中が価格変動に直接影響しています。
最近は中国側がデュアルユース(軍民両用)物資としてレアアースの輸出管理を強化しており、この制限が供給の不透明感を強めています(兵器・軍事用途に利用可能な物質に対する規制強化)。これにより他国の企業は調達や許認可の遅延リスクに直面し、リスクプレミアムとして価格が高止まりする要因につながっています。
また、米国・EU・日本・オーストラリアなどが供給網強化や連携強化の動きを進めており、これが複数国間での価格形成や中期的な市場構造変化の背景として作用しています。主要国は中国依存を弱める戦略的同盟や輸出管理緩和政策の議論を進めています。
こうした地政学的な環境は、単に価格を決める要素だけでなく、長期的なプレミアム(割高感)を価格に織り込ませる力となっています。
サプライチェーンの変化:多様化の模索と新指標
世界的なサプライチェーンでは、中国中心からの脱却が大きなテーマになっています。中国以外の鉱山開発や精錬能力の整備が進んでおり、米国やオーストラリア、アフリカなどのプロジェクト投資が加速しています。これらは今後数年で供給能力の分散化を進める可能性があります。
加えて市場の透明性を高める取り組みとして、中国以外の価格指標や取引ベンチマークの導入が議論されています。これは、中国主導の価格形成以外の市場指標の重要性が増している証左であり、将来的な価格発見とリスク評価に寄与します。
サプライチェーンの変化は、価格推移に直接影響するだけでなく、各国企業が在庫管理や契約交渉戦略を再構築する必要があることも意味しています。
主要元素別の価格トレンド比較
1. ネオジム(Nd)/プラセオジム(Pr) — EV・再エネ向けの主力素材
2025〜2026年で全体的に価格上昇傾向が続いています。ネオジムとプラセオジムを組み合わせたNdPr酸化物・金属価格は需要増により年々高値圏で推移しています。中国国内では2026年1月にNdPr酸化物や金属価格が引き続き上昇しているとの報告があり、原料価格の上昇が下流磁石市場にも波及しています。
国際価格でも、2025年の時点でNdPr系の価格はトン当たり約$120.000〜$130.000と高い水準で推移し、2026年にかけてさらに上昇圧力があるとの予測も出ています。これらはEVモーターや風力発電の磁石需要が拡大しているためです。
要点:ネオジム・プラセオジムは主要需要産業の成長で価格が強含み、長期的な高止まりが予想されます。
2. ジスプロシウム(Dy)/テルビウム(Tb) — 重希土類の需給ひっ迫と動向
重希土類(Dy/Tb)は供給が比較的タイトで、価格の動向が軽希土類とやや異なっています。2026年1月中旬の中国市場では、Dy/Tb価格も上昇傾向が見られましたが、1月末時点ではDy・Tb製品価格がやや調整ムードになる場面もありました。
2025年中頃のデータでは、Dy価格はNdPrより高く、Tbはさらにプレミアム価格水準となっていました(例: Tbが$1.983/kg前後、Dyが$453.9/kg前後と推計)。これは特殊用途での需要が相対的に強いことを反映しています。
要点:DyやTbは軽希土類よりも価格変動が大きく、需給がひっ迫するほど価格もプレミアム圏となる傾向が強いです。
3. その他の元素(ランタン・セリウム等) — 低価格だが基礎需要あり
ランタン(La)やセリウム(Ce)などの軽希土類はNdPr系ほどの高価格水準ではなく、価格は相対的に低く安定傾向です。これは主に用途が磁石以外(触媒、ガラス添加剤など)に偏るためです。中国市場でもこれら軽希土類の価格は低水準で推移しており、主要磁石用途素材ほど大きな価格変動は見られていません。
要点:La・Ceは市場価格が比較的低めで、NdやDy・Tbのような高性能磁石用途ほど価格プレミアムが乗っていません。
トレンドまとめ(ポイント)
| 元素 | 主な用途 | 価格動向(2025–2026) | 主な理由 |
| ネオジム(Nd)/プラセオジム(Pr) | EV・風力発電・磁石 | 高値圏・上昇傾向 | EV/再エネ需要増、供給制約 |
| ジスプロシウム(Dy)/テルビウム(Tb) | 高耐熱磁石・特殊用途 | 非常に高価格・変動大 | 供給タイト・特殊用途需要 |
| ランタン(La)、セリウム(Ce) | ガラス・触媒 | 低価格・安定 | 需給構造が比較的緩やか |
影響分析:産業・投資・政策視点
1.産業への影響
a.自動車(EV)・再生可能エネルギー産業へのコストインパクト
レアアースは、特にネオジム系磁石がEVモーターやハイブリッド車、風力発電に不可欠です。この素材の供給は中国が精製・加工の大部分を担っており、輸出制限や供給不安が業界全体のコスト構造に影響を与えています。例えば、2025年に中国が希土類製品の輸出管理を強化したことが、世界の自動車業界にとって重大なボトルネックとなり、部品調達や生産計画に影響を及ぼしたとの分析があります。中国は加工能力の約90%を占めるため、この支配力の変動が下流企業にも波及しています。
また、日本企業でも部品メーカーが中国側の輸出制限で資材調達に影響を受けているとの報告があり、これを契機として供給源の多様化や代替技術の開発が急がれています。
b.下流企業(磁石メーカーなど)の戦略
多くの下流企業(磁石メーカー、精密機器メーカー)は、中国依存を減らすためのサプライチェーン再編を進めています。磁石素材の一部は既に中国外の精製能力を持つ国でも生産され始めており、今後は多国籍供給体制の構築が進む見込みです。
また企業単位では代替技術開発やリサイクル技術への投資も進んでおり、レアアース使用量の削減や再利用可能素材の開発が競争力強化の鍵となっています。
2.投資へのインプリケーション
レアアース関連株・ETFの注目点
レアアース価格とサプライチェーンリスクの高まりは、鉱山開発企業、精製企業、磁石メーカーなど関連セクター株への投資機会を増やしています。2025年には、中国以外の供給能力強化や政策支援により関連株が大きく上昇する局面が見られました。特に西側市場では、政策支援を受ける企業に評価が高まり、株価評価の見直しが進んでいるとのレポートもあります。
また、テーマ型ETF(例:レアアースに投資するETF)への資金流入もあり、分散的な投資戦略として活用されつつあるという見方もあります。
3.政策とサプライチェーン戦略
a.日本・欧米の供給多様化政策
世界各国が中国依存を低減するため、政策レベルでの供給多様化策を強化しています。欧州では、原材料依存を低減するための戦略が進められており、国内外の鉱山や精製プロジェクトへの資金支援や共同購入プラットフォームの設立が検討されています。
日本でも、南鳥島沖の海底レアアース試掘プロジェクトが進展しており、将来的に国内供給源を確保することを目指す動きが見られます。
b.戦略ストックと輸出規制対応
米国では、「Project Vault」と呼ばれる120億ドル規模のレアアース戦略備蓄政策が発表され、供給ショックに対する備えとして国家的な備蓄体制を整備する動きがあります。これは石油備蓄に類似した構造で、重要産業の供給を守る役割を担うものです。
また、政策として単に備蓄を積むだけでなく、米国・同盟国間での供給協力や加工能力の拡充支援も進んでおり、結果として中長期的なサプライチェーンの回復力強化につながると期待されています。
将来予測とリスク要因
1.価格上昇シナリオ vs 価格安定化シナリオ
価格上昇シナリオ(需給ひっ迫)
世界的なレアアース需要は、EV・再生可能エネルギー・防衛・高性能電子機器の拡大で今後も強く成長が見込まれています。特にネオジムやジスプロシウムなどの永久磁石用レアアースは、2030年代にかけて需要が供給を上回る可能性が高いとの予測もあり、供給不足が価格上昇圧力につながると考えられています。将来的には重希土類の一部元素で大きな価格高騰が予想される局面もあり得ます。例えば一部予測では、2034年までにジスプロシウム価格が現在比で数百%増加する可能性も示されています。
価格安定化シナリオ(供給改善・多様化)
一方で、2030年頃までにリサイクル資源や中国以外の供給源の比率が高まる動きも期待されています。ある市場予測では、2030年までに世界のレアアース供給の約25%がリサイクルや中国外の供給源から賄われる可能性があるとされています。これにより一部元素の価格は安定化または上昇圧力の緩和が期待されます。
2.2030年代に向けた市場構造変化予測
a.需給バランスの変化
レアアースの世界市場は引き続き成長トレンドが予測されており、2035年に向けた市場規模は2026年〜2035年でCAGR約5.9%と予測されています。特に永久磁石用途が市場の大部分を牽引します。
産業用途の増加により、2030年にはNdPrの供給が需要に追いつかない期間が継続するとの見方もありますが、再生資源や新規鉱山の稼働が進むことで需給緩和が見込まれる局面もあります。
b.採掘・精製政策の進展
世界各国で鉱山開発支援、精製能力の強化、リサイクル推進などの政策支援が強化されています。特に米国や欧州は戦略的備蓄や国内プロジェクト支援に注力しており、市場の供給構造変化を促進すると期待されます。
日本も深海採掘など新技術・新供給源の開発に着手しており、将来的には中国依存度の低減につながる可能性があります。
3.リスク要因(景気後退・技術代替・環境規制ほか)
景気後退や外部ショックによる価格変動リスク
景気後退やグローバルな需要減少は、商品の価格変動を加速させる可能性があります。特に電機・自動車需要が減速すると、価格が一時的に下落するリスクがあります。
地政学的リスクと政策変動
中国依存度の高さは依然大きなリスクであり、貿易摩擦や輸出管理政策が市場をひっ迫させる要因となっています。中国が輸出許可やライセンスを厳格化する動きも報告されており、供給不安が価格の変動性を高めています。
また、米国などの戦略備蓄政策は価格に影響を与える可能性があり、価格の安定化策と同時に市場のボラティリティを誘発することもあります。
技術代替の進展リスク
ある種のレアアースの需要を抑える技術開発(磁石の代替材料、リサイクル高度化など)が成功すれば、価格上昇シナリオに下方圧力がかかる可能性があります。新材料・低希少性材料の開発は中長期的なリスクとして意識されます。
環境規制・社会的制約
鉱山や精製に関する環境規制は依然厳しく、多くの新規プロジェクトで許認可や環境対応コストが増大しているとの報告があります。これらは新規供給源拡大を遅らせ、供給不足を助長する可能性があります。
よくある質問(FAQ)
Q1. レアアースとは何ですか?
レアアース(希土類)とは、ネオジム、ジスプロシウム、テルビウムなど17種類の元素の総称です。産出量が極端に少ないわけではありませんが、分離・精製が難しく、供給が特定地域に偏りやすいことから「希少」とされています。
Q2. なぜレアアースの価格は変動が大きいのですか?
主な理由は以下の3点です。
供給が中国に集中しており、政策や輸出規制の影響を受けやすい
EV・再生可能エネルギー向け需要が急増している
在庫量が少なく、需給の小さな変化でも価格が動きやすい
特に重希土類(ジスプロシウム、テルビウムなど)は供給が限られており、価格変動が大きくなりやすい傾向があります。
Q3. 現在、特に価格が高いレアアースはどれですか?
直近では、以下の元素が高価格・高ボラティリティの代表例です。
テルビウム(Tb):磁石の耐熱性向上に不可欠で非常に高価
ジスプロシウム(Dy):EV・風力向け需要が強く供給がタイト
ネオジム/プラセオジム(NdPr):磁石用途の主力素材で高値圏
一方、ランタンやセリウムは比較的価格が安定しています。
Q4. レアアース価格は今後も上昇しますか?
中長期的には上昇圧力が残るとの見方が優勢です。
理由としては、
EV・再エネ市場の拡大
軍事・半導体用途の需要増
新規鉱山・精製能力の立ち上げに時間がかかる
ただし、景気後退や技術代替が進んだ場合には、一時的な価格調整局面が起こる可能性もあります。
Q5. 中国以外からの供給は増えているのですか?
増加傾向にはありますが、短期的には限定的です。
米国、オーストラリア、日本、EUなどが鉱山開発や精製能力の強化を進めていますが、環境規制やコストの問題から、中国依存を完全に解消するには時間がかかると考えられています。
Q6. レアアース価格は私たちの生活にどう影響しますか?
直接意識しにくいものの、以下の形で影響します。
EVや家電製品の製造コスト上昇
風力発電設備などの再エネコストへの影響
半導体・電子機器の価格や供給の不安定化
結果として、製品価格や供給スケジュールに影響する可能性があります。
Q7. 投資対象としてレアアースは注目すべきですか?
テーマ投資としては注目度が高い一方、価格変動と政策リスクが大きい分野です。
メリット:長期需要成長、政策支援
リスク:地政学リスク、技術代替、価格変動の大きさ
そのため、関連株やETFを通じた分散投資や、中長期視点での判断が重要とされています。
Q8. リサイクルはレアアース不足の解決策になりますか?
中長期的には重要な解決策の一つです。
使用済みモーターや電子機器からの回収技術は進展していますが、現時点では供給全体を賄う規模には達していません。2030年代にかけて徐々に比率が高まると見込まれています。
結論
レアアースの価格推移は、EVや再生可能エネルギー関連需要の拡大、中国の供給政策、地政学リスクといった要因に左右されながら、中長期的には不安定な状態を続けています。短期的には需要調整や在庫増減による価格の上下が見られるものの、脱炭素や先端技術の進展を背景に、戦略資源としての重要性は一段と高まっています。
このため、企業にとっては調達先の分散やリサイクル技術の強化が重要となり、各国政府には資源確保や国内生産支援といった政策対応が求められます。投資の観点では、価格変動リスクを意識しつつ、レアアース関連企業や代替技術の動向を中長期で見極める姿勢が有効でしょう。
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