公開日: 2026-01-31
本記事では、簿価と時価の違いについて、それぞれの本質や、両者間の比較を解説します。
簿価とは、企業が資産を取得した価格をもとに、会計ルールに従って帳簿上で計算された評価額のことです。主に決算書に記載され、過去の取引を基準にしています。
時価とは、市場で実際に売買されている現在の価格を指します。株式であれば株価、不動産であればその時点の市場価格が時価にあたります。
この2つは、会計上の数字(簿価)と市場の評価(時価)という性質の違いからズレが生じます。そのズレが大きい場合、割安・割高の判断材料となり、投資チャンスにもリスクにもつながります。
簿価とは何か

簿価(帳簿価額)とは、企業が資産を取得したときの価格を基準に、会計ルールに従って帳簿上で計算された評価額のことです。決算書に記載される数値であり、あくまで「会計上の価値」を示します。
簿価は取得原価主義に基づいて計算されます。これは、資産は購入したときの価格で記録し、その後は市場価格が変動しても原則として帳簿上は反映しないという考え方です。ただし、建物や設備など長期間使う資産については、使用や時間の経過による価値の減少を考慮し、減価償却によって毎年少しずつ簿価を減らしていきます。
貸借対照表(B/S)では、簿価は資産の部に記載され、企業が現在どれだけの資産を会計上保有しているかを示します。ここに表示される金額は、必ずしも「今売ったらいくらになるか」という価格ではない点が重要です。
株式投資では、簿価を応用した指標として1株当たり簿価(BPS:Book-value Per Share)がよく使われます。BPSは、企業の純資産を発行済株式数で割ったもので、理論上の「1株あたりの純資産価値」を表します。株価とBPSを比較することで、PBR(株価純資産倍率)を算出し、株式が割安か割高かを判断する材料になります。
つまり簿価は、企業の財務状況を把握するための基礎的な指標であり、投資判断では時価と組み合わせて見ることが重要です。
時価とは何か

時価とは、資産が現在の市場で実際に取引されている価格、または合理的に取引されると考えられる価格のことです。会計や金融の分野では「市場価値」や「公正価値」とも呼ばれ、今この瞬間の評価を反映する点が特徴です。
株式市場においては、時価=株価を意味します。証券取引所で日々売買される価格は、投資家の需要と供給によって決まり、企業の業績、将来の成長期待、経済環境などが瞬時に織り込まれます。そのため、時価は常に変動し続けます。
不動産の場合、時価は「その物件を今売却した場合に成立すると考えられる価格」を指します。公示地価や路線価は参考指標ではありますが、実際の時価は立地、需要、金利、景気動向などによって変わります。
債券の時価は、市場金利の動きと強く連動します。金利が上昇すると既存債券の時価は下落し、金利が低下すると時価は上昇するのが一般的です。
デリバティブ(先物・オプションなど)の時価は、原資産価格、ボラティリティ、残存期間など複数の要素をもとに理論価格として算出されます。
時価が変動する主な要因には、以下があります。
需給:買いたい人と売りたい人のバランス
金利:特に株式・債券・不動産の評価に大きく影響
業績:企業の利益成長や業績見通し
将来への期待:成長性、政策、技術革新、景気見通しなど
このように時価は、現在だけでなく将来に対する市場の評価を含んだ価格です。簿価が「過去の数字」であるのに対し、時価は「今とこれから」を映す指標であり、投資判断において非常に重要な役割を果たします。
簿価と時価がズレる理由
簿価と時価が一致しないのは珍しいことではなく、むしろズレるのが普通です。その背景には、会計の考え方と市場の評価軸の違いがあります。
まず大きな理由が、会計基準と市場評価の違いです。簿価は取得原価主義に基づき、過去にいくらで買ったかを基準に計算されます。一方、時価は「今いくらで売買できるか」という現在の市場評価を反映します。会計は安定性や客観性を重視するため、市場価格の変動をすぐには反映しませんが、市場は常に変化するため、ここにズレが生じます。
次に、将来成長性やブランド価値が簿価に反映されにくい点です。企業の技術力、ブランド力、顧客基盤、将来の利益成長への期待といった無形の価値は、原則として簿価には計上されません。しかし株式市場では、こうした将来性が強く評価され、時価(株価)を大きく押し上げる要因になります。その結果、成長企業ほど簿価と時価の差が拡大しやすくなります。
また、インフレや金利変動の影響も無視できません。インフレが進むと、過去に取得した土地や設備の実質的な価値は上昇している場合がありますが、簿価は取得時の価格を基準とするため上昇分は反映されません。金利についても、金利低下局面では株式や不動産の時価が上昇しやすく、金利上昇局面では逆に時価が下落しやすくなり、簿価との乖離が拡大します。
さらに重要なのが、含み益・含み損の存在です。企業が保有する株式や不動産などの資産は、帳簿上の簿価と実際の時価が異なることがあります。この差額は、売却するまで決算書に表れにくく、「含み益」または「含み損」として潜在的に存在します。市場ではこの含み益・含み損を織り込んで企業価値が評価されるため、時価と簿価の差がさらに広がります。
このように、簿価は過去の事実を正確に示す数字であり、時価は現在と将来に対する市場の評価です。両者のズレを理解することで、企業の本当の価値や投資機会が見えやすくなります。
投資で重要な「簿価と時価の関係」
投資判断においては、簿価と時価を単独で見るのではなく、両者の関係性を見ることが重要です。この関係を理解することで、割安・割高の判断や、銘柄の性格を見極めやすくなります。
1.PBR(株価純資産倍率)との関係
PBR(Price Book-value Ratio)は、株価(時価)が1株当たり簿価(BPS)の何倍かを示す指標です。
PBR=株価 ÷ BPS
PBR=1倍:時価と簿価が同水準
PBR>1倍:市場が簿価以上の価値を評価
PBR<1倍:簿価に対して市場評価が低い状態
PBRは、企業の資産価値に対して株価が割安か割高かを判断する際の基本指標として広く使われています。
2.簿価割れ銘柄は本当に割安か?
PBRが1倍を下回る、いわゆる簿価割れ銘柄は一見すると割安に見えます。しかし、必ずしも投資妙味があるとは限りません。
収益力が低く、資産を有効活用できていない
将来の成長性が乏しいと市場が判断している
不良資産や含み損を抱えている可能性がある
このような場合、市場は「簿価通りの価値すらない」と評価していることになります。そのため、簿価割れ=即買いではなく、収益性・事業内容・改善余地を併せて確認することが重要です。
3.時価が簿価を大きく上回る企業の特徴
時価が簿価を大きく上回り、PBRが高い企業は、市場から将来性を強く評価されている企業です。
主な特徴としては以下が挙げられます。
高い利益成長率や安定した収益モデル
強いブランド力や競争優位性
技術力・知的財産・プラットフォーム価値
将来の市場拡大が見込まれる分野に属している
これらの要素は簿価には反映されにくいため、時価が大きく上回る状態が生まれます。
4.バリュー株・グロース株の見分け方
簿価と時価の関係は、バリュー株とグロース株の分類にも直結します。
a. バリュー株:
PBRが低い(1倍前後またはそれ以下)
資産価値に対して割安とされやすい
安定収益・高配当の傾向
b. グロース株:
PBRが高い
将来の成長性が株価に織り込まれている
短期的な割安感は乏しいが、成長余地が大きい
どちらが優れているかは相場環境や投資スタイルによって異なります。重要なのは、簿価と時価の差が「何を意味しているのか」を理解した上で投資判断を行うことです。
具体例で理解する簿価と時価の違い
簿価と時価の違いは、定義だけでなく具体例で見ると直感的に理解しやすくなります。ここでは、株式・不動産・企業買収(M&A)の3つの代表的なケースで説明します。
1.株式の例(取得価格・簿価・現在株価)
ある企業が、1株1.000円で他社株式を1万株購入したとします。
この場合、取得時点の簿価は「1.000円 × 1万株 = 1.000万円」です。
その後、株価が上昇して1株2.000円になった場合、市場での時価は2.000万円になります。しかし、売却しない限り帳簿上の簿価は原則として1.000万円のままです。この差額1.000万円は含み益として存在します。
逆に株価が500円に下落した場合、時価は500万円となり、簿価との差は含み損になります。市場はこの時価をもとに企業価値を評価するため、保有資産の含み益・含み損が株価に影響を与えることになります。
2.不動産の例(購入価格と現在の市場価格)
企業や個人が、10年前に1億円で不動産を購入したとします。
会計上は、建物部分について減価償却が行われるため、現在の簿価は例えば7.000万円まで下がっているかもしれません。
一方で、立地条件の改善や地価上昇により、現在その不動産が1億5.000万円で売却できる場合、市場での時価は1億5.000万円となります。
この場合、簿価と時価の差である8.000万円は帳簿には表れませんが、実際には大きな資産価値として存在しています。
逆に、不動産価格が下落していれば、簿価より時価が下回るケースもあり、これが企業評価や融資判断に影響を与えることもあります。
3.企業買収(M&A)における「のれん」の発生
M&Aでは、簿価と時価の違いが特に明確に表れます。
例えば、買収対象企業の純資産(簿価)が100億円であるにもかかわらず、将来の収益力やブランド価値を評価して150億円で買収したとします。
このとき、差額の50億円は「のれん」として計上されます。
のれんは、技術力、顧客基盤、ブランド力、人材など、帳簿には載らない無形の価値を金額として表したものです。
つまり、M&Aでは「簿価」ではなく「時価(実質的な企業価値)」を基準に価格が決まるため、両者の違いがはっきりと可視化されます。のれんが大きいほど、将来への期待が高い一方、期待通りの成果が出なければ減損リスクも伴います。
簿価と時価を見るときの注意点
簿価と時価はどちらも重要な指標ですが、見方を誤ると投資判断を誤解しやすいという注意点があります。ここでは、実務・投資の現場で特に意識すべきポイントを整理します。
1.簿価は「過去」、時価は「現在と未来」を反映している
簿価は、資産を取得した時点の価格をもとに計算されるため、過去の事実を正確に示す数字です。財務状況の安定性や資産の積み上げを確認するには有効ですが、将来の成長性や環境変化は反映されにくいという特徴があります。
一方、時価は市場参加者の判断によって決まるため、現在の状況だけでなく将来への期待まで織り込まれます。そのため、業績改善の兆しがあれば簿価が変わらなくても時価は先に上昇し、逆に将来不安が強まれば簿価が高くても時価は下落します。
この違いを理解せずに、簿価だけ・時価だけを見ると、企業価値を正しく捉えられません。
2.一時的な市場過熱・過小評価に注意
時価は市場心理の影響を強く受けます。好材料が続いた場合には、期待が先行して実力以上に時価が上昇(過熱)することがあります。逆に、悪材料や相場全体の調整局面では、企業の本質的価値に比べて過度に売られる(過小評価)ケースも少なくありません。
このような局面では、
簿価や財務内容が安定しているか
一時的な要因なのか、構造的な問題なのか
を冷静に確認することが重要です。簿価は市場の過熱感を見極める「ブレーキ役」、時価は変化を捉える「アクセル役」と考えると理解しやすくなります。
3.業種による向き不向きがある点を理解する
簿価と時価の関係は、業種によって大きく異なる点にも注意が必要です。
銀行・保険など金融業
保有資産が多く、簿価が企業価値を比較的よく反映します。PBRが重視されやすく、簿価と時価の関係が投資判断に直結しやすい業種です。
製造業・インフラ関連
工場や設備など有形資産が多いため、簿価の信頼性は一定程度あります。ただし、設備の老朽化や競争力低下があると、簿価ほどの価値がない場合もあります。
IT・サービス・成長企業
技術力、データ、ブランド、人材など無形資産が中心のため、簿価は企業価値を過小評価しやすい傾向があります。この分野では、時価が簿価を大きく上回ることが一般的です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 簿価と時価はどちらを重視すべきですか?
どちらか一方ではなく、目的に応じて両方を重視することが重要です。
簿価は企業の財務基盤や資産の厚みを確認するのに向いており、長期的な安定性を測る指標になります。一方、時価は市場がその企業をどう評価しているか、将来に何を期待しているかを反映します。
投資判断では、簿価で下支えを確認し、時価で成長性や期待を読むという組み合わせが理想的です。
Q2. 簿価はなぜすぐに更新されないのですか?
簿価は会計ルールに基づき、客観性と継続性を重視して算出されるため、日々の市場価格の変動は反映されません。
頻繁に更新すると、業績比較が難しくなり、決算の信頼性が損なわれる恐れがあります。そのため、簿価は決算期ごとに見直されるのが基本で、意図的に安定した数値として扱われているのです。
Q3. 時価評価はリスクが高いのでしょうか?
時価評価そのものが危険というわけではありませんが、市場心理の影響を強く受けやすい点がリスクになります。
短期的には過熱や過度な悲観によって、実態以上に価格が動くことがあります。そのため、時価だけを見て判断すると、高値掴みや狼狽売りにつながる可能性があります。
簿価や業績と照らし合わせて確認することで、時価評価のリスクは抑えられます。
Q4. 個人投資家は簿価と時価をどう使い分けるべきですか?
個人投資家は、投資スタイルに応じた使い分けが効果的です。
長期投資:
簿価やPBRを参考に、財務の安定性や資産価値を重視する
成長投資:
時価やその変化に注目し、市場の評価や成長期待を読む
バランス型:
簿価で下値リスクを確認しつつ、時価で上昇余地を判断する
このように、簿価と時価は対立する概念ではなく、補完関係にあります。両方を理解して使い分けることで、より納得感のある投資判断ができるようになります。
結論
簿価と時価の違いを理解することは、投資判断の基本中の基本です。簿価は企業の財務基盤や資産の安定性を示し、時価は市場が評価する現在と将来の期待を反映します。
この2つをあわせて見ることで、企業が過小評価されているのか、期待先行で評価されているのかが見えてきます。さらにPBRなどの指標と組み合わせることで、より客観的で納得感のある投資判断が可能になります。
免責事項:この資料は一般的な情報提供のみを目的としており、信頼できる財務、投資、その他のアドバイスを意図したものではなく、またそのように見なされるべきではありません。この資料に記載されている意見は、EBCまたは著者が特定の投資、証券、取引、または投資戦略が特定の個人に適していることを推奨するものではありません。