公開日: 2026-01-05
近年、ベネズエラ原油を巡る情勢が再び国際的な注目を集めています。米国はベネズエラに対する制裁を強化し、原油輸出に関わるタンカーの取り締まりや圧力を強めており、同国の石油産業は大きな影響を受けています。世界最大級の原油埋蔵量を誇るベネズエラは、本来であれば世界のエネルギー供給において重要な存在ですが、政治的対立や制裁によって供給が不安定化している点が、国際ニュースとして注目される理由です。
ベネズエラ原油産業の現状
ベネズエラは世界最大の石油埋蔵量を誇る国として知られており、約3030億バレル超 の確認埋蔵量を持っています。この豊富な資源は主に東部のオリノコ・ベルト(Orinoco Belt)に集中しており、超重質原油が大量に埋蔵されています。しかし、この原油は粘度が高く、精製や輸出可能な状態にするには軽油などの希釈材が必要で、生産コストも高いという特徴があります。
一方、生産と輸出の実績を見ると、近年は政治的・経済的な制約から大きく復活しているわけではありません。2024年のベネズエラ国営石油会社PDVSA(ペトロレオス・デ・ベネズエラ)の輸出は1日あたり約805.500バレルとなり、前年度の約70万バレルから増加しました。これは一時的に米国当局が外国企業に対してライセンスを与え、生産・輸出が拡大した影響です。
同時に、2024年の国際販売収益は約175億ドル(約2兆円以上)に達しました。ただし、これでも数年前の水準には遠く及ばず、制裁や投資不足などが足かせとなっています。
生産量自体も過去のピークには程遠く、2024年の平均生産は約95万バレル/日前後とされています。これは過去数十年で落ち込んでいたレベルからやや改善は見られるものの、1970年代のピーク時と比べると大幅な減少です。
さらに2025年末以降、米国の制裁強化やタンカー封鎖の影響もあり、一部では生産・輸出が再び減少しているという指標も出ています。12月には平均生産量が約96万3千バレル/日 にとどまり、前月比で減少するなど、依然として不安定な状況です。

米国とベネズエラの緊張関係
近年、米国とベネズエラの関係はかつてないほど緊迫しています。これまで経済制裁や輸出規制を中心としていた米国の対ベネズエラ戦略は、2025年末から軍事・外交措置へと大きくエスカレートしました。
1.制裁・封鎖・軍事的動き
まず2025年12月に、米国はベネズエラ沖で制裁対象の原油タンカーを拿捕し(Operation Southern Spearの一環)、複数隻を封鎖する措置を実施しました。これにより、ベネズエラからの原油の海上輸送路が直接的に制約を受けています。
さらに2026年1月初頭、トランプ米大統領はベネズエラに対する軍事作戦を実施し、ニコラス・マドゥロ大統領とその配偶者を拘束したと発表しました。これに対し、米国側はベネズエラの政権構造や石油インフラを管理する意向を示しており、単なる制裁強化に留まらない介入姿勢が浮き彫りになっています。
米国政府は海上封鎖だけでなく、制裁対象タンカーおよび関連中国・香港企業への制裁を拡大しており、ベネズエラの原油貿易ネットワーク全体に圧力をかけています。
2.米国の戦略と原油市場への影響
このような軍事・制裁圧力の高まりは、国際原油市場にも影響を与えています。一部の専門家は、ベネズエラの供給途絶が原油市場全体の供給懸念を生むとの見方を示していますが、現状では世界的な供給過剰もあって、原油価格への直接的な影響は限定的という分析もあります。
ただし、米国がベネズエラの原油資源とインフラに「全面的アクセス」を要求する姿勢を明確にしたことで、石油市場における地政学リスク・プレミアムが意識され始めました。供給側の不確実性が高まると、重質原油の価格や輸送リスクに連動して市場のボラティリティが高まる可能性があります。
また、米国務長官らはベネズエラとその周辺国・地域に対し、政治的要求や安全保障上の圧力を続けています。これは単なる原油市場への影響だけではなく、広範な外交圧力戦略の一部とも評価されています。
ベネズエラ国内の影響とPDVSAの苦境
近年、ベネズエラの国営石油会社PDVSA(Petróleos de Venezuela, S.A.)は、政治的な混乱と米国の制裁・封鎖などを背景に、石油産業全体が深刻な困難に直面しています。
① 生産・輸出が急激に落ち込む状況
米国が原油輸出を事実上全面的に封鎖する「油 embargo」を実施した結果、ベネズエラの原油輸出はほぼ停止し、港からタンカーが出航しない状況が続いています。これによりPDVSAは余剰の原油在庫を抱え、生産調整・削減を余儀なくされています。
輸出が止まったことで陸上・海上の貯蔵設備が満杯に近づき、これ以上の原油を処理する余地がなくなったため、PDVSAはいくつかの油田や井戸の停止を決定しました。これは在庫の増大と運搬の目途が立たないことによるものです。
この影響で、2025年12月には産油量が前月比で大きく減少し、日量約96万3千バレルまで落ち込んだという報告もあります。これは世界市場全体では小さなシェアに過ぎないものの、PDVSAにとっては重大な収益源の喪失を意味します。
② インフラ老朽化と運用の脆弱性
PDVSAが抱える課題は単なる輸出停止だけではありません。長年の投資不足や設備の老朽化によって、油田・パイプライン・精製施設の多くが十分に機能していません。こうした基盤の弱さは、正常な原油生産や精製・輸送を阻む大きな要因です。
さらに、PDVSAでは専門設備や希釈剤(重質油を輸出可能にするために使うナフサなど)の不足も深刻化しており、これらの供給制約が生産能力をさらに低下させています。
③ サイバー攻撃と追加の運用リスク
クリスマス前後にはPDVSAの端末・管理システムに対してサイバー攻撃が発生したとの報告もあります。この攻撃はすべての操業を停止させたわけではないものの、一部の出荷や端末の運用に混乱をもたらした可能性が指摘されています。
こうしたサイバーリスクは、既存の設備やプロセスの脆弱性をさらに浮き彫りにし、対外的な取引や輸出体制の一層の不安定化につながっています。
④ 経済・社会への波及
石油輸出はベネズエラ経済の根幹であり、PDVSAの苦境は国家財政や外貨収入の急減につながっています。また、国内燃料供給にも圧迫が生じ、輸送や電力など他の産業にも悪影響が広がっています。

原油価格と国際市場への波及
2026年に入っても、原油価格は世界的な供給過剰感と地政学リスクのせめぎ合いの中で比較的落ち着いた動きを続けています。最新の市場データでは、主要指標となる国際原油価格は以下のように推移しています:
ブレント原油(国際基準):1バレルあたり約$60〜$61前後で取引されており、一時は60ドル台前半で推移しています。
WTI原油(米国標準):1バレルあたり約$57〜$58前後と報告されており、50ドル台後半の落ち着いた水準が続いています。
この水準は、2025年を通じて供給が世界的に潤沢であったことを背景に、原油価格が大幅に下落した流れを引き継いだものです。2025年はブレント原油が年間で約20%近い下落を記録し、WTIも同様に低調な動きとなりました。
一方で、原油市場は世界的な供給過剰との見方が依然として強く、石油輸出量が増加している主要産油国の動きや、OPECプラスが当面は生産量を据え置く方針を示していることが価格を抑える要因となっています。
地政学リスクと価格安定のバランス
ベネズエラを巡る緊張や米国の制裁強化は、地政学的なリスク要因として原油市場の注目点になっています。例えば、ベネズエラ原油の輸出減少は一部で供給リスクとして意識されるものの、現時点では市場全体の供給余剰を埋めるほどの影響力は限定的と分析されています。
また、ゴールドマン・サックスなど多くのエネルギーアナリストは、2026年にかけて原油価格が供給過多を背景に下落圧力にさらされるとの予想を示しており、ブレントやWTIの平均価格が2026年を通じて低迷する可能性も指摘されています。
今後の見通し(短期・中長期)
ベネズエラの原油産業と国際市場への影響は、米国の軍事・制裁措置や世界の需給バランスの中で今後どう変化するのかが注目されています。最新の報道やアナリスト予測を踏まえて、短期と中長期に分けて見ていきます。
1. 短期(2026年前半)
短期的には、ベネズエラの原油生産と輸出は依然として不安定な状況が続く可能性が高いです。米国が原油輸出に対する制裁や封鎖を強化し、原油輸送網が混乱していることから、一部の原油積み出しが止まり、PDVSAは生産量の削減に踏み切っています。
また、国際原油市場は依然として供給過剰の状況が続いているとの見方が強く、原油価格は地政学的リスクが高まっても大きく上昇しにくいとの分析があります。世界の供給は今後も需要を上回るとの予測があり、原油価格は比較的落ち着いた動きになる可能性が高いです。
このため、短期では下記のようなポイントが想定されます:
輸出・生産の不安定化:米国封鎖や制裁の影響で輸出ルートが遮断され、PDVSAが生産調整を続ける可能性。
原油価格のボラティリティ:需給過剰が続く中、地政学リスクが上昇しても価格が急騰するほどではない可能性。
2. 中長期(2026後半〜2030年代)
中長期的には、ベネズエラ原油が再び国際市場で大きな供給源となるかどうかが焦点です。現在、ベネズエラは世界最大級の原油埋蔵量(約3.000億バレル以上)を保持しているものの、生産能力の回復には莫大な投資と政治的安定が不可欠と専門家は指摘しています。
さらに、米国や他の国際企業がベネズエラのエネルギー産業への投資を増やす可能性がある一方で、契約の安全性・政治的リスク・インフラの老朽化などが足かせとなる懸念が残っています。
一部のエネルギーアナリストは、政権移行や制裁緩和が進めば2020年代後半から2030年代にかけてベネズエラの原油生産が段階的に回復し、長期的な供給増加が見込まれると指摘しています。ただし、この生産回復は「数年〜10年単位」の長い時間を要するとの予想です。
中長期の主なポイント:
復活には長期間と巨額の投資が必要:設備更新・新規開発・契約上のリスク回避など多くの課題が存在。
政権安定化と制裁緩和が鍵:政治的不確実性の解消が産油国としての魅力を高める条件。
市場への影響はゆっくり:潜在的な生産回復は中長期的な供給増加要因だが、即時の影響は限定的。
よくある質問(FAQ)
Q1. ベネズエラはなぜ原油埋蔵量が世界最大級なのですか?
ベネズエラには「オリノコ・ベルト」と呼ばれる巨大な油田地帯があり、超重質原油を中心に莫大な量の原油が埋蔵されています。このため、確認埋蔵量ベースでは世界最大級とされています。ただし、原油の質が重く、開発や精製に高いコストがかかる点が課題です。
Q2. ベネズエラ原油はなぜ国際市場への影響が限定的なのですか?
政治的混乱や米国の制裁、インフラの老朽化により、生産量や輸出量が大きく制限されているためです。理論上の資源量は非常に大きいものの、実際に市場へ供給できる量が少ないため、現時点では原油価格全体への影響は限定的と見られています。
Q3. 米国の制裁はベネズエラ原油にどのような影響を与えていますか?
米国の制裁により、原油輸出先や決済手段が制限され、タンカー輸送や海外企業との取引が難しくなっています。その結果、PDVSAは生産削減や輸出停止を余儀なくされ、外貨収入の減少につながっています。
Q4. ベネズエラ原油の生産は今後回復する可能性がありますか?
中長期的には回復の可能性はありますが、政治的安定、制裁の緩和、巨額の設備投資が不可欠です。専門家の多くは、生産回復には数年から10年単位の時間がかかると見ています。
Q5. ベネズエラ情勢は原油価格にどの程度影響しますか?
短期的には、世界全体が供給過剰気味であるため、ベネズエラ情勢だけで原油価格が急騰する可能性は低いと考えられています。ただし、地政学リスクがさらに拡大した場合や、他の産油国と同時に供給が減少した場合には、価格変動要因となる可能性があります。
Q6. 投資家が注目すべきポイントは何ですか?
投資家にとっては、
米国の制裁政策の変更
ベネズエラ国内の政権・政治情勢
PDVSAの生産・輸出データ
国際原油需給バランス
といった点が重要なチェックポイントになります。
結論
ベネズエラは世界最大級の原油埋蔵量を持つ一方で、政治的混乱や米国による制裁、老朽化した石油インフラといった課題を抱えており、ベネズエラ原油の生産・輸出は依然として不安定な状況が続いています。そのため、国際原油市場に与える影響は限定的であるものの、米国の政策変更や制裁の強化・緩和といった地政学的な動き次第では、市場の需給や価格に影響を及ぼす可能性があります。今後もベネズエラ情勢は、世界の原油市場を左右する重要な不確定要因の一つとして注視されるでしょう。
免責事項:この資料は一般的な情報提供のみを目的としており、信頼できる財務、投資、その他のアドバイスを意図したものではなく、またそのように見なされるべきではありません。この資料に記載されている意見は、EBCまたは著者が特定の投資、証券、取引、または投資戦略が特定の個人に適していることを推奨するものではありません。