公開日: 2025-12-19
量子コンピューターとは、従来のコンピューターが「0」か「1」で計算を行うのに対し、「0」と「1」を同時に扱える量子ビットを用いて高速計算を行う次世代技術です。特定の計算分野では、現在のスーパーコンピューターを大きく上回る性能を発揮すると期待されています。
近年、「量子コンピューター日本株」が注目されている背景には、AIや半導体に続く次世代成長テーマとして位置づけられていることがあります。日本政府による研究開発支援や、国内企業の量子技術への投資拡大が進んでおり、将来の産業競争力向上への期待が株式市場でも意識され始めています。
また、量子コンピューター分野では米国や中国が先行している一方、日本も大学・研究機関と企業が連携し、基礎研究から実用化に向けた取り組みを強化しています。こうした国際的な技術競争の中で、日本企業がどの分野で存在感を示せるかが、今後の日本株投資の注目ポイントとなっています。
量子コンピューター市場の将来性
量子コンピューター市場は、まだ黎明期にあるものの、今後10年で急成長が見込まれる分野の一つです。現在は研究開発や実証実験が中心ですが、各国政府や大手IT企業が巨額の投資を進めており、将来的には実用段階へ移行すると考えられています。特に米国や中国、欧州では国家戦略として量子技術の開発が進められており、市場規模は中長期的に拡大していく見通しです。
1.実用化が期待される分野
量子コンピューターが注目される理由は、特定の計算分野において従来のコンピューターでは困難だった問題を高速で解ける可能性がある点にあります。
金融分野では、膨大な組み合わせを考慮する必要があるポートフォリオ最適化やリスク管理、デリバティブ価格の計算などでの活用が期待されています。これにより、金融機関の運用効率や収益性向上につながる可能性があります。
創薬・素材開発分野では、分子構造や化学反応のシミュレーションに量子コンピューターが有効とされています。新薬の開発期間短縮や、新素材の発見が加速すれば、製薬会社や化学メーカーにとって大きな競争優位となります。
製造業・物流分野では、生産計画の最適化やサプライチェーン全体の効率化に活用される可能性があります。工場の稼働率向上や物流コスト削減といった実務レベルでの効果が期待されています。
AI・暗号技術分野では、AIの学習効率向上や、既存の暗号技術を再定義する可能性が議論されています。一方で、量子耐性暗号といった新たなセキュリティ需要も生まれており、関連技術への投資も拡大しています。
2.日本企業にとってのビジネスチャンス
日本は、量子コンピューターの基礎研究や周辺技術に強みを持つ国の一つです。特に、半導体製造装置、電子部品、光学技術、精密機器といった分野では、量子コンピューターの開発に欠かせない技術を提供できる企業が多く存在します。
また、国内では大学や研究機関と企業が連携する形で研究開発が進められており、直接的な量子コンピューター開発だけでなく、ソフトウェア、クラウド連携、計測・冷却技術など、幅広い分野でビジネス機会が広がっています。こうした背景から、量子コンピューターは日本株市場においても中長期的な成長テーマとして注目されているのです。
量子コンピューター日本株とは
量子コンピューター日本株とは、量子コンピューターの開発・実用化に直接または間接的に関わる事業を持つ企業の株式を指します。一口に量子コンピューター関連といっても、その関わり方はさまざまであり、投資の視点では分類して理解することが重要です。
1.量子ハードウェア・量子ソフトウェア・周辺技術の分類
まず、量子コンピューター関連企業は大きく以下の3つに分けられます。
量子ハードウェア分野は、量子ビットを実装する本体装置や、その中核部品を手がける企業です。超伝導回路やイオントラップ、光量子といった方式の研究開発に加え、極低温環境を実現する冷却装置や高精度制御技術などが含まれます。日本企業は、精密機器や電子部品分野で強みを持つため、この領域での関与が比較的多いのが特徴です。
量子ソフトウェア分野は、量子アルゴリズムやシミュレーション技術、量子コンピューターをクラウド経由で活用するためのプラットフォームを提供する企業が該当します。ハードウェアが完成途上である現段階では、実証実験や研究用途が中心ですが、将来的に実用化が進めば収益化の余地が大きい分野とされています。
周辺技術分野には、半導体製造装置、計測機器、光学部品、通信技術、量子暗号などが含まれます。これらは量子コンピューター専業ではないものの、量子技術の発展とともに需要拡大が見込まれる分野であり、日本株市場では特に注目されやすいカテゴリーです。
2.直接関連銘柄と間接関連銘柄の違い
投資の観点では、量子コンピューター関連銘柄は直接関連と間接関連に分けて考えられます。
直接関連銘柄は、量子コンピューターの開発や量子技術を事業の中核に据えている企業です。研究開発の進展や実証実験の成功といったニュースが株価に与える影響は大きい一方、業績への貢献が本格化するまで時間がかかるケースも多く、値動きは不安定になりやすい傾向があります。
一方、間接関連銘柄は、量子コンピューター向けの部品や装置、関連技術を提供する企業です。本業が安定しているケースが多く、量子分野の成長が「上乗せ材料」として評価されやすい点が特徴です。中長期投資では、こうした間接関連銘柄に注目する投資家も少なくありません。
3.国策・研究開発支援が株価に与える影響
量子コンピューター分野は、民間企業だけでなく国策としての支援が重要な役割を果たしています。日本では政府主導の研究開発プロジェクトや大学・研究機関との共同研究が進められており、こうした取り組みに参加する企業は市場から注目されやすくなります。
特に、国家予算の投入や大型プロジェクトへの採択、海外企業との提携発表などは、短期的に株価材料となるケースがあります。ただし、国策テーマは期待先行で株価が動きやすいため、実際の事業進展や収益化のタイミングを見極めることが、投資判断において重要になります。
注目される量子コンピューター日本株(具体的企業例)
量子コンピューター関連銘柄として日本株で注目される企業は、ハードウェア・ソフトウェア・大手総合電機など複数のカテゴリに分けて整理できます。
1.ハードウェア・基盤技術系
富士通(Fujitsu)
富士通は、日本での量子コンピューター開発の中心的企業の一つであり、理化学研究所(RIKEN)との共同研究を通じて「超伝導量子コンピューター」システムの開発・実用化を進めています。2025年には商用向けシステムとしての導入計画が進み、企業向けクラウド連携サービスも提供しています。
ULVAC / ULVAC CRYOGENICS
量子コンピュータの心臓部となる極低温冷却装置(希釈冷凍機)の開発・製造を行う企業です。IBMとの協業で日本国内の量子機器導入実績もあり、冷却技術という基盤部分で量子コンピュータの実装に不可欠な役割を果たします。
TOYO Corporation
計測機器・表面技術等を手がけるTOYOは、海外量子ハードウェア企業 IQM との国内販売・実装パートナー契約を締結し、国内での量子機導入支援を進めています。これにより国内研究機関・企業向けの量子システム普及を見据えた事業拡大が期待されます。
2.IT・ソフトウェア・研究開発系
QunaSys(クナシス)
量子化学計算や分子シミュレーション向けのソフトウェア開発企業。量子アルゴリズムやシミュレーションツールを提供し、製薬・素材探索分野での実用性に期待が高まっています。
Jij Inc.
オープンソース量子アニーリングソフト「OpenJij」を開発する企業です。量子最適化アルゴリズムの提供や研究者向けプラットフォーム構築を通じて、実務的な量子計算需要に対応しています。
Groovenauts
福岡拠点の企業で、量子コンピュータのアルゴリズムおよびSDK開発にも取り組むなど、量子ソフトウェア領域の先端スタートアップとして注目されています。
3.大手企業・総合電機(国策・戦略連携)
NTT(日本電信電話株式会社)
通信インフラ企業として量子技術に関わる研究を継続的に進め、理化学研究所などと共同で量子関連プロジェクトに参画。量子通信ソリューション・研究基盤構築など国策テーマと結びつく存在です。
KDDI
量子鍵配送(QKD)ネットワークや量子安全通信分野を推進しており、量子インターネットやネットワーク領域での競争力強化を図っています。
Mitsui & Co., Ltd.(三井物産)
グローバル量子企業 Quantinuum との戦略的パートナーシップを締結し、量子コンピューティングの商用応用開発や新ビジネスモデル創出に取り組んでいます。
SoftBank(ソフトバンク)
世界的な量子企業 Quantinuum との協業を進め、AI×量子コンピューティングの応用領域を探索する取り組みを発表しています。実用化転換への先進的なアプローチが投資家から注目されているポイントです。
株価はどう動く?投資家が見るべきポイント

量子コンピュータ関連株は、まだ実用化段階にあるため、独特の値動きの特徴や材料の出方があります。以下のポイントを押さえることで、投資判断に役立つ流れを理解できます。
1. 研究開発・特許・共同研究のニュースが株価材料に
量子コンピュータは技術革新が中心テーマであり、具体的な技術進展の発表が株価に敏感に反応します。
例えば、日本企業では富士通が世界最大級の256量子ビット超電導量子コンピュータの開発を発表し、技術的な進展が投資家の注目を集めています。
また、共同研究や提携発表も重要な株価材料です。大手企業が研究機関や海外企業と共同で進める実証実験ニュースが出ると、期待感から株価が上昇する傾向が見られます。
2. 実用化までの時間軸と中長期の視点
量子コンピュータの 商用実用化はまだ先であり、現状では研究・実証段階が中心です。短期的な利益を狙うだけでなく、中長期での成長テーマとして捉える必要があります。
海外銘柄でも、量子技術関連株が10倍近く上昇する例がある一方、実用化までの道のりが長いため、一時的な材料出尽くしで調整する場面も見られます。
3. テーマ株特有の値動きの特徴(高ボラティリティ)
量子コンピュータ関連株は、ニュースや期待感で大きく動く性質があります。
米国の量子銘柄を例にすると、2025年はD-WaveやIonQなど株価が急騰している事例がありますが、同時に高いボラティリティ(値動きの激しさ)も見られています。
このような テーマ株の値動きは、日本株でも見られやすく、良いニュースのときは急上昇、材料が出尽くすと調整が入るというパターンがよくあります。
4. 決算・IR・政府政策発表の影響
量子コンピュータ関連では、 企業IR(投資家向け情報)や政府政策発表が株価に影響することがあります。
たとえば、日本政府が量子技術の産業化支援を進めていることが材料視され、関連企業全体への資金流入期待が高まったりします。
決算発表でも、研究開発費や今後の投資計画が強気で示されると、中長期での成長期待が高まりやすいです。一方、赤字拡大が懸念されるとテーマ株全体の地合いが悪化することもあります。
量子コンピュータ日本株のリスク
量子コンピュータは将来性の高い成長テーマである一方、投資対象としては特有のリスクも存在します。期待だけで判断せず、以下のポイントを理解しておくことが重要です。
■ 実用化が遅れるリスク
量子コンピュータは「次世代技術」として注目されていますが、本格的な商用実用化にはまだ時間がかかると考えられています。
研究レベルでは成果が出ていても、安定稼働やコスト面の課題、用途の限定性などから、企業の売上や利益に直結するまでには長い時間を要する可能性があります。
そのため、
技術発表が続いても業績が伸びない
期待先行で株価が上がった後、現実とのギャップで調整が入る
といった展開になりやすい点は注意が必要です。
■ 競争激化による技術淘汰
量子コンピュータ分野は、米国・中国・欧州を含めた世界規模の技術競争が進んでいます。
方式も超伝導、イオントラップ、光量子など複数存在しており、将来的にどの技術が主流になるかはまだ確定していません。
このため、
現在有力とされる技術が将来主流にならない
研究開発に投資しても成果が商業化されない
といった技術淘汰リスクがあります。特定の方式に依存している企業ほど、この影響を受けやすくなります。
■ テーマ先行による株価過熱
量子コンピュータ関連株は、AIや半導体と同様にテーマ性が非常に強い銘柄群です。
政府支援、研究成果、海外企業との提携といったニュースをきっかけに、短期間で株価が急上昇することがあります。
しかしその一方で、
実態以上に期待が先行する
材料出尽くしで急落する
といったテーマ株特有の値動きも起こりやすく、高値掴みのリスクが存在します。特に短期売買では、過熱感の見極めが重要になります。
■ 業績に直結しない期間の長さ
多くの量子コンピュータ関連企業では、量子分野がまだ本業の一部、あるいは研究段階にとどまっています。
そのため、研究開発費は増加しても、売上や利益への貢献は限定的というケースが少なくありません。
投資家目線では、
赤字や利益横ばいが続く可能性
決算数字だけを見ると評価しづらい
といった状況が続くことを想定する必要があります。特に中小型株では、財務体質や本業の安定性も重要なチェックポイントとなります。
中長期投資としての考え方
量子コンピュータ日本株は、短期的な値動きだけでなく、将来の技術革新を見据えた中長期投資として検討されるケースが多いテーマです。そのため、投資スタンスを明確にした上で向き合うことが重要になります。
■ 短期売買向きか、中長期保有向きか
量子コンピュータ関連株は、
研究成果の発表
政府支援や国策ニュース
海外企業との提携
といった材料が出たタイミングで急騰・急落しやすい特徴があります。この点だけを見ると短期売買向きにも見えますが、実際には値動きの予測が難しく、リスクも高いため、初心者には難易度が高い側面があります。
一方で、量子コンピュータは実用化までに年単位の時間がかかる技術であり、事業価値が本格的に評価されるのはこれからです。そのため、
短期:材料相場として一部を活用
中長期:将来の成長オプションとして保有
という考え方が現実的で、多くの投資家は中長期目線でのポジション構築を選択しています。
■ ポートフォリオに組み入れる際の注意点
量子コンピュータ日本株をポートフォリオに組み入れる際は、比率管理が非常に重要です。
まだ収益化が進んでいないテーマであるため、ポートフォリオの中心に据えるよりも、
成長テーマ枠の一部
将来性に賭けるサテライト投資
として位置づけるのが一般的です。
また、以下の点を意識するとリスクを抑えやすくなります。
本業が安定している企業を選ぶ
量子分野「専業」よりも間接関連銘柄を組み合わせる
複数銘柄に分散する
特に日本株では、量子分野が本業に対してどの程度の位置づけかを確認することが、中長期投資では重要な判断材料となります。
■ AI・半導体・次世代通信との比較
量子コンピュータは、AIや半導体、次世代通信(6Gなど)と並ぶ次世代技術テーマとして語られることが多い分野です。ただし、成熟度には明確な違いがあります。
AI・半導体
すでに実用化・収益化が進み、業績に直結しやすい。株価も実績ベースで評価されやすい
次世代通信(6Gなど)
インフラ整備段階で、実用化は数年先。ただし市場規模は比較的見えやすい
量子コンピュータ
技術的ブレークスルー待ちの段階で、実用化・収益化は最も先。ただし、実現した場合のインパクトは非常に大きい
このように、量子コンピュータはリスクも高いがリターンの夢も大きい分野と位置づけることができます。そのため、すでにAIや半導体で安定した投資成果を得ている投資家が、次の成長テーマとして少額から組み入れるケースも増えています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 量子コンピュータ関連の日本株は今から買っても遅くない?
結論から言うと、「遅すぎる」という段階ではありません。
量子コンピュータはまだ研究・実証段階にあり、本格的な収益化はこれからと考えられています。そのため、現在の株価には将来期待が一部織り込まれているものの、技術革新や実用化が進めば中長期で再評価される余地は残っています。
ただし、短期間で大きなリターンを狙うよりも、
押し目を分けて買う
成長テーマとして少額から組み入れる
といった中長期目線の投資が現実的です。
Q2. 米国株と日本株、どちらが有望?
技術面では、米国株が先行しているのは事実です。米国には量子コンピュータ専業企業が複数上場しており、テーマとしての分かりやすさがあります。
一方で、日本株には別の魅力があります。
国策・研究開発支援と結びつきやすい
半導体・精密機器・電子部品など間接関連が豊富
本業が安定している企業が多い
そのため、
高リスク・高ボラティリティを許容できるなら米国株
安定性を重視し、中長期で構えたいなら日本株
といった使い分けが考えられます。両方に分散投資するのも一つの選択肢です。
Q3. 量子コンピュータの実用化はいつ頃?
一般的には、2030年前後が一つの目安とされています。
ただし、これは「一部の分野で実用化が進む」という意味であり、すべての産業で広く使われるには、さらに時間がかかる可能性があります。
現段階では、
研究用途
実証実験
特定分野(創薬・最適化問題など)
から徐々に活用が進むと見られています。株式投資では、実用化の“前段階”で株価が動くことが多い点も意識しておく必要があります。
Q4. 初心者でも投資できるテーマ?
投資は可能ですが、注意点の多いテーマです。
量子コンピュータ関連株は値動きが大きく、業績との連動性が低いケースもあるため、初心者が短期売買で利益を狙うのは難易度が高めです。
初心者の場合は、
量子分野が「一部事業」にとどまる大手企業
本業が安定している間接関連銘柄
テーマ投資として少額で保有
といった形での参加が現実的です。まずは学びながら中長期で保有する姿勢が向いているテーマといえるでしょう。
結論
量子コンピュータ日本株は、まだ実用化の途上にあるものの、国策支援や企業の研究開発投資を背景に、中長期的な成長が期待されるテーマです。現時点では業績への直接的な貢献は限定的ですが、将来の技術革新が企業価値を大きく押し上げる可能性があります。
一方で、実用化の遅れや技術競争の激化、テーマ先行による株価変動といった課題も無視できません。そのため投資にあたっては、量子分野への関与度合い、本業の安定性、国策や提携動向などを確認し、短期ではなく中長期目線で慎重に判断することが重要です。
免責事項: この資料は一般的な情報提供のみを目的としており、信頼できる財務、投資、その他のアドバイスを意図したものではなく、またそのように見なされるべきではありません。この資料に記載されている意見は、EBCまたは著者が特定の投資、証券、取引、または投資戦略が特定の個人に適していることを推奨するものではありません。