パラジウム価格がなぜ下落|需給・EVシフト・ドル高の影響
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パラジウム価格がなぜ下落|需給・EVシフト・ドル高の影響

著者: 高橋健司

公開日: 2026-01-16

パラジウム価格は、過去には供給不足や自動車需要の拡大を背景に強い上昇局面が続いてきました。しかし最近では、その流れに変化が見られ、価格は調整局面に入っています。とくに、需要の大部分を占める自動車排ガス触媒向け需要が伸び悩んでいることが重しとなっています。電気自動車(EV)の普及や、触媒材料の見直しによって需給バランスが緩みつつあり、こうした構造的な変化がパラジウム価格を押し下げる要因となっています。

パラジウム価格が下落直近のパラジウム価格の動き

最近のパラジウム価格の推移を見ると、2025年10月中旬には約1.655ドルという2年以上ぶりの高値を付けた後、2026年1月には1.900ドルを下回る水準まで調整しています。これは、投資家の利益確定売りや市場センチメントの変化が影響した結果とみられています。


この下落の背景には、米ドルの強さやグローバル経済の需要不安といったマクロ要因が関係しています。ドル高はドル建て商品であるパラジウムを相対的に割高にし、売り圧力を強める傾向があります。


日本国内の地金価格でも、2026年1月15日時点のパラジウム価格は前日比で下落しており、金・プラチナと比較して調整が目立ちます。



パラジウム価格がなぜ下落したのか — 主要因分析

パラジウム先物が下落

① ドル高圧力

米ドルが強くなると、パラジウム価格が下落しやすくなるという市場の構造があります。これはパラジウムが国際商品として米ドル建てで取引されるためで、ドル高になると相対的に他国の通貨で買う際の価格が高くなり、海外の需要が弱まる傾向があります。強いドルはコモディティ全般にとって売り圧力になりやすく、パラジウムも例外ではありません。


実際、2025年11月には米ドル指数が数カ月ぶりの高値圏で推移した時期があり、その際にパラジウム相場は調整色を強めました。「ドル高=パラジウムが外国通貨ベースで割高になり、需要が鈍る→価格下押し」という動きが見られたのです。


また、米ドル高の背景には金利や経済指標も関係します。例えば、米国の経済指標が堅調であれば利下げ期待が後退し、ドルが買われやすくなります。その結果、貴金属全般に下押し圧力がかかるケースもあります。これらの通貨・金融の動きが、パラジウム価格の変動に影響を与えていると考えられます。


② 自動車需要の構造変化

パラジウムの需要の大部分(約80〜90%)は自動車の排ガス触媒コンバーター向けで、主にガソリン車などの内燃機関車で使われています。そのため、自動車産業の構造変化はパラジウム市場に大きな影響を与えています。


まず、電気自動車(EV)の普及が進むと、触媒を必要としないEVにはパラジウムが使われません。その結果、従来のガソリン車の市場シェアが減少すれば、パラジウムの需要そのものが縮小する方向に向かいます。世界的にEVの販売比率は年々上昇しており、この長期的なトレンドがパラジウム需要の低下圧力として働いています。


加えて、自動車メーカーは技術的・経済的な理由からプラチナへの代替を進めるケースも出ています。パラジウムの価格が高水準だった影響もあり、ガソリン車向け触媒でも一部にプラチナを使う設計が増えてきました。これにより、パラジウムに依存した需要の成長が抑制される傾向が見られます。


また、ハイブリッド車(HV)についてはまだ触媒が必要なためパラジウムを使いますが、この分野でも技術の見直しや材料設計の変更が進んでおり、パラジウム依存度が将来的に変わる可能性もあります。こうした自動車市場の変化が、パラジウム価格の下落圧力として作用しているのです。


③ 供給・在庫変化

パラジウム価格の下落には、供給側の変化や在庫動向も重要な要因として挙げられます。市場では長年、パラジウムの供給は需要を下回る「供給不足」状態が続いてきましたが、最近の動きではこの均衡関係に変化の兆しが出ています。


まず、鉱山からの供給量の増減がポイントです。世界最大の供給国であるロシアや南アフリカでは、2025年の生産量は前年に比べてやや減少したものの、供給水準自体は比較的安定しています。ロシアの大手企業が設備更新などの影響で生産調整を行っている一方で、これらの供給が回復基調にあるとの見方も広まっており、極端な供給不足懸念が和らぎつつあります。


また、リサイクル供給の増加も需給関係に影響しています。自動車の排ガス触媒に使われたパラジウムは、車両の廃棄時に回収・再精製され、二次供給として市場に戻ります。今後、このリサイクル量は年平均で増加していくとの予測もあり、供給全体を押し上げる材料となっています。


これらの要因が合わさることで、過去に在庫や供給のひっ迫感が価格を押し上げていた局面に比べ、市場では需給がやや緩和する可能性が意識されるようになっています。 需給が逼迫しているという見方が弱まると、投資家心理としては「価格上昇を支える強い材料が乏しい」と判断され、需給観測を背景に売り圧力につながる場合もあります。


④ 投資家センチメント変化

パラジウム価格が調整局面に入った背景には、需給要因だけでなく投資家の心理(センチメント)の変化も強く影響しています。


まず、価格が比較的高値圏にある局面では、投機的な利益確定売りが強まることがあります。実際、最近の取引では、パラジウム先物が一定の上昇を見せた後に、投資家が一部の利益を確保するために売りに回ったケースが観測されています。こうした利益確定売りは一時的に価格を押し下げる圧力になり、特に市場参加者の売りが重なると調整幅が大きくなりがちです。


また、投資家の関心が他の資産クラスへ移動することによる資金フローの変化も、パラジウム需要を弱める要因になります。例えば、株式市場の調整や米連邦準備制度理事会(FRB)の政策期待の変化に応じて、安全資産やリスク資産への資金配分が変わると、パラジウムのようなコモディティへの資金流入が減少し、相対的に売圧力が強まることがあります。これは投資家心理が「よりリターンの大きい資産に資金を移す」局面や、「リスクオフで安全資産(例:金)に逃げる」といった動きが出た時に顕著です(例えば金や銀・株式などとの相対的な動きを見ると、貴金属全体の需給と投資マインドが影響し合っています)。


さらに、市場のボラティリティが高まった局面では、流動性が薄いパラジウム市場は投機的な売買に左右されやすいという特性もあります。需給の弱い局面や見通しが不透明な局面では、短期トレーダーやヘッジファンドが利益確定・損切りの売りを優先するため、価格がさらに下押しされることがあります。こうしたセンチメントの変化は、単なる需給バランス以上に価格変動を拡大させる要因となります。


プラチナとの比較:相対価格逆転が示すパラジウムの弱さ

プラチナ

近年、パラジウム市場の弱さを象徴する動きとして、パラジウム価格がプラチナ価格を下回る局面が確認されています。これは2018年以来の現象であり、市場にとっては大きな転換点と受け止められています。実際、2024年初頭には自動車産業の需要構造の変化を背景に、パラジウムがプラチナを下回る水準で取引される場面が見られました。


この背景にある最大の要因が、自動車触媒における代替(サブスティテューション)です。かつてパラジウム価格がプラチナを大きく上回っていた2019~2022年にかけて、自動車メーカーはコスト削減のため、ガソリン車向け触媒でパラジウムをプラチナに置き換える設計変更を進めました。世界プラチナ投資協議会(WPIC)によると、2023年だけで約62万オンスのパラジウム需要がプラチナに置き換えられたと推計されています。


重要なのは、この代替が一時的ではなく「構造的」な変化である点です。自動車触媒は一度設計が変更されると、車種のライフサイクル(約7年)にわたって維持されるため、価格が接近したからといって、すぐにパラジウムへ戻る可能性は低いとされています。その結果、パラジウムは価格面でプラチナに対する優位性を失い、相対的な競争力が低下しました。


一方で、プラチナは需要構造がより分散している点が評価されています。自動車向けに加え、宝飾品、工業用途、水素関連分野など複数の需要源を持つため、EV化の影響を受けやすいパラジウムと比べて、市場からの評価が安定しやすいと指摘されています。


このように、「価格逆転+代替固定化」という状況は、パラジウムの中長期的な需要見通しに慎重な見方を強め、結果として価格の上値を抑える要因となっています。プラチナとの比較は、パラジウム価格下落の背景を理解するうえで、非常に重要な視点と言えるでしょう。


今後の見通しと市場予想

パラジウムの今後の見通しは、アナリストや調査機関によって見方が分かれるものの、全体としては需給バランスの改善余地や市場の先行き不透明感が意識されている状況です。


まず、2025年に発表されたUBSのレポートでは、パラジウムは2024年に価格が下落したものの、市場は13年連続で供給不足が続いていると指摘されています。2024年の供給不足は約50万1.000オンスと推定される一方、2025年は需給がほぼ均衡に近い**ごくわずかな不足(約1万7.000オンス)になるとの見通しが出ています。また、UBS自体はやや強気の見方を維持し、2025年も約30万オンスの供給不足が続く可能性を示唆していますが、価格予想としては中立的なスタンスを取っています。これは、需給バランスが極端にタイトではなくなる可能性があるためです。


一方、市場調査会社Metals Focusの分析では、パラジウムの需給は今後も物理的な不足(デフィシット)が続くものの、その規模は縮小するとの予測があります。2024年に約56万6.000オンスの不足が見られたものの、2025年と2026年にはそれぞれ減少していくと見られており、2026年にはデフィシットが大幅に縮小することが予想されています。この背景には、リサイクル供給の増加や需要の微減(主に自動車用途)があるとされています。


価格水準の予想については、一部の金融機関が直近の相場を反映して見直しを行っています。例えばバンク・オブ・アメリカ(BofA)は2026年のパラジウム平均価格予想を引き上げ、かつてより高めの水準を見込んでいます。これはパラジウムとプラチナが他の貴金属と連動して堅調に推移したことを受けたものです。


また、世界プラチナ投資協議会(WPIC)の長期予測では、パラジウムの需給バランスは2027年ごろまでデフィシットが続く可能性があるとし、その後に均衡へ向かう可能性を示しています。この見通しは、EV化の進展が緩やかであることや内燃機関車・ハイブリッド車の需要が完全には消えない点が背景にあります。


こうしたアナリスト見通しからは、パラジウム価格がすぐに大きく上昇に転じる材料は限定的である一方、中長期的な需給の均衡・供給改善の可能性を織り込んだ穏やかな価格形成が続く可能性が読み取れます。特に電気自動車(EV)の普及や触媒設計の変化が進むにつれて、パラジウムの自動車用途需要は構造的な下押し圧力となる可能性もあり、これが市場予想に影響を与えています。


よくある質問(FAQ)

Q1:パラジウム価格がなぜ下落したのですか?

主な理由は複数あります。自動車向け需要の減少(EV普及や触媒の代替)、供給や在庫の増加、そして米ドル高や経済指標によるマクロ要因です。これらが同時に価格を押し下げています。


Q2:電気自動車(EV)の普及はパラジウムにどのような影響がありますか?

EVは触媒を必要としないため、ガソリン車に比べてパラジウム需要が減ります。EVシフトが進むほど、パラジウムの価格は下押しされやすくなります。


Q3:パラジウムとプラチナの価格差には意味がありますか?

あります。最近はパラジウムがプラチナより安くなる場面もあり、これは自動車メーカーがコスト削減のためパラジウムをプラチナに置き換える動きが影響しています。価格の相対的な強弱を見る上で参考になります。


Q4:パラジウム価格は今後上昇しますか?

中長期的には需給バランスや供給動向によって変動します。供給不足の懸念や自動車需要の回復があれば上昇する可能性もありますが、EVシフトやリサイクル供給の増加などがあるため、短期的な大幅上昇は限定的と考えられます。


Q5:投資家として注意すべきポイントは?

パラジウムは価格変動が大きく、投機的な影響も受けやすい市場です。需給だけでなく、ドル高や世界経済の動向、EV普及の進行度もチェックすることが重要です。


結論

パラジウム価格がなぜ下落したかについて、ひとつの理由だけで起きているわけではありません。EVの普及などによる需要の減少、供給回復や在庫の増加、そしてドル高などのマクロ経済要因が重なり合って、価格を押し下げているのです。つまり、複数の要因が同時に作用している現象だと言えます。


免責事項:この資料は一般的な情報提供のみを目的としており、信頼できる財務、投資、その他のアドバイスを意図したものではなく、またそのように見なされるべきではありません。この資料に記載されている意見は、EBCまたは著者が特定の投資、証券、取引、または投資戦略が特定の個人に適していることを推奨するものではありません。