公開日: 2025-11-16
買いオペとは、「買いオペレーション(買い入れオペレーション)」の略で、日本銀行が市場から国債などの金融資産を買い入れることで、市場に資金を供給する政策手段のことです。これは「公開市場操作(オープン・マーケット・オペレーション)」の一種で、主に景気が低迷しているときに行われます。
資金を市場に流すことで金利を下げ、企業の投資や個人の消費を促す狙いがあります。つまり、買いオペは日本銀行による「金融緩和」の代表的な方法といえます。
買いオペの仕組み

買いオペの基本的な仕組みは、日本銀行が市中銀行(民間の銀行)から国債や社債などの金融資産を買い入れることによって、市場に資金を供給するというものです。
具体的には、次のような流れになります:
日銀が国債などを買い入れる
日本銀行は公開市場で、民間銀行が保有する国債などを購入します。
市中銀行の資金量が増える
国債を売った銀行は、その代金として日本銀行に預けている当座預金残高が増えます。
貸し出し余力の拡大
資金が潤沢になった銀行は、企業や個人への貸し出しを増やしやすくなります。
経済活動の活性化
企業の投資や個人の消費が促され、景気を刺激する効果が期待されます。
一方で、売りオペ(売りオペレーション)はこの逆の動きです。
日銀が市場に国債などを売却し、資金を吸収することで市場の資金量を減らします。これはインフレ抑制や金利上昇を目的とした「金融引き締め」に使われます。
つまり、
買いオペ=資金供給 → 金融緩和
売りオペ=資金吸収 → 金融引き締め
という関係になっています。
このように、買いオペは日本銀行が市場の資金量や金利をコントロールするための、重要な金融政策ツールなのです。
買いオペの目的と効果
買いオペの主な目的は、市場に資金を供給して金利を引き下げ、景気を刺激することです。
日本銀行は、景気が停滞したり、物価が下落しやすくなったりしているときに、金融システム全体の資金の流れを良くするために買いオペを実施します。
■ 主な目的
市場への資金供給
日銀が国債などを買い入れることで、市場に大量の資金が流れ込みます。
銀行は余裕資金を持つようになり、企業や個人への貸し出しが活発になります。
金利の引き下げ
資金が豊富になると、短期金利が自然と低下します。
低金利は企業の設備投資や住宅ローンなどの借入コストを下げ、経済活動を後押しします。
デフレ対策(物価下落の防止)
景気が悪化して物価が下がる「デフレ」局面では、買いオペによって資金を供給し、物価を安定させる狙いがあります。
■ 期待される効果
金利低下による投資・消費の拡大
企業は資金調達がしやすくなり、設備投資を増やします。
個人も住宅ローン金利の低下などで消費意欲が高まり、経済全体が活性化します。
円安の促進効果
金利が下がると、円の魅力が低下して円安傾向になります。
円安は輸出企業の業績改善につながり、日本経済を支える要因となります。
■ 一方での副作用・リスク
買いオペは万能ではなく、長期的には次のような副作用も懸念されます。
インフレリスク:過度な資金供給が続くと、物価が急上昇するリスクが生じます。
国債市場のゆがみ:日銀が大量に国債を保有することで、市場の流動性が低下し、価格形成が歪む可能性があります。
出口戦略の難しさ:金融緩和を長期間続けると、政策を正常化する際に市場への影響が大きくなります。
日銀の買いオペの実例
日本銀行の買いオペは、理論上の仕組みだけでなく、実際の経済政策として何度も活用されています。特に2013年以降の「アベノミクス」では、日銀が積極的な金融緩和を実施し、買いオペが大きな役割を果たしました。ここでは、主要な事例をいくつか紹介します。
■ アベノミクス期の大規模量的緩和(2013年〜)
2013年、黒田東彦総裁のもとで始まった「量的・質的金融緩和(QQE)」政策では、日銀が年間80兆円規模で国債を買い入れるという前例のない大規模な買いオペを実施しました。
目的は、長期金利を下げて資金調達コストを低下させ、デフレからの脱却を図ることでした。
この政策により、日銀のバランスシート(保有資産)は急速に拡大し、国債の大部分を日銀が保有する状況になりました。その結果、金利は歴史的な低水準まで低下し、円安や株高を誘発するなど、景気刺激効果をもたらしました。
■ 国債・ETFの大量購入
量的緩和の一環として、日銀は国債だけでなく、ETF(上場投資信託)やJ-REIT(不動産投資信託)の買い入れも行いました。
これは、金融市場全体に資金を供給することで、株式市場や不動産市場を下支えし、資産効果を通じて消費や投資を刺激する狙いがありました。
特にETF購入は、世界的にも異例の政策であり、日銀は日本株市場における「最大の株主」とも言われるほどに存在感を高めました。
■ 最近の動向:YCC(イールドカーブ・コントロール)政策との関係
2016年以降は、日銀は新たに「長短金利操作(YCC)」を導入しました。これは、短期金利をマイナスに設定し、長期金利をおおむね0%程度に誘導する政策です。
この目標を維持するために、日銀は長期国債を必要な量だけ買い入れる=買いオペを柔軟に実施しています。
たとえば、長期金利が上昇しそうになると、日銀は臨時の買いオペを実施して金利上昇を抑えます。こうした対応は、金融市場の安定や企業の資金調達コストの抑制に寄与しています。
■ 現在の課題

近年では、買いオペの長期化により「市場機能の低下」や「出口戦略の難しさ」が指摘されています。
日銀が国債市場をほぼ支配する状態では、自由な価格形成が難しくなり、金利の動きが実体経済を正しく反映しにくくなるという課題もあります。
買いオペと景気・為替への影響
買いオペは、日本銀行が市場に資金を供給することで金利を下げ、経済全体にさまざまな影響を与える政策です。金利の低下は企業活動や個人消費を刺激する一方で、為替や資産市場にも大きな波及効果があります。ここでは、その主な影響を順に見ていきます。
■ 金利低下と円安の関係
買いオペによって市場に資金が多く流れ込むと、短期金利・長期金利の双方が低下します。
金利が下がると、日本円で資金を運用する魅力が低下するため、投資家はより高い利回りを求めて海外資産に資金を移す傾向があります。
その結果、円が売られやすくなり、円安が進行します。
円安は日本の輸出企業にとって追い風となり、海外での価格競争力が高まるため、企業収益の改善につながります。これが株価上昇を後押しすることも多いです。
一方で、輸入品の価格が上がるため、エネルギーや食料品の物価上昇(コストプッシュインフレ)が起こるリスクもあります。
■ 株式市場・不動産市場への資金流入効果
買いオペによって金利が低下すると、銀行預金や債券投資の利回りが下がるため、投資家はより高いリターンを求めて株式や不動産などのリスク資産に資金を移動させます。
これにより、
株式市場では企業業績の改善期待と相まって株価が上昇しやすくなる
不動産市場では、低金利の住宅ローン需要が拡大し、地価や物件価格が上昇する傾向が強まる
このように、買いオペは「資産価格の上昇」を通じて経済全体を押し上げる効果を持っています。
■ 過度な金融緩和とバブルリスク
しかし、買いオペによる資金供給が長期化しすぎると、過剰流動性が市場に滞留し、資産価格が実体経済の成長を超えて上昇する可能性があります。
これがいわゆる「バブルリスク」です。
特に不動産や株式市場では、実需を伴わない価格上昇が続くと、後に急落する危険性があります。
また、円安が行き過ぎると、輸入コストの上昇により生活必需品の価格が上がり、消費者の実質購買力を圧迫するなどの副作用も見られます。
よくある質問(FAQ)
Q1:買いオペと売りオペの違いは何ですか?
買いオペは「市場に資金を供給する」操作で、金利を下げて景気を刺激することが目的です。
一方、売りオペはその逆で、「市場から資金を吸収する」操作です。
金利を上げてインフレを抑えるなど、景気の過熱を防ぐ目的で使われます。
買いオペ=金融緩和(資金を増やす)
売りオペ=金融引き締め(資金を減らす)
Q2:日銀はなぜ国債を買うのですか?
国債を買うことで、市場に資金を供給し、金利を引き下げるためです。
国債は安全性が高く、取引量も多いため、金融市場全体に広く資金を流しやすいという特徴があります。
日銀が国債を買うことで、銀行の資金余力が増し、企業や個人への融資が活発になります。
Q3:買いオペは私たちの生活にどんな影響がありますか?
買いオペによって金利が下がると、住宅ローンや自動車ローンの金利が低下し、家計の負担が軽くなるメリットがあります。
一方で、円安が進むと輸入品やエネルギーの価格が上がり、生活費が増えることもあります。
つまり、家計にプラスとマイナスの両面がある政策といえます。
Q4:買いオペとは永遠に続けられるのですか?
いいえ、無制限には続けられません。
買いオペを長期間続けると、インフレや資産バブル、国債市場の機能低下などの副作用が強まります。
そのため、日銀は経済の状況を見ながら、買いオペの規模を縮小したり、金利政策を見直したりしてバランスを取っています。
Q5:海外の中央銀行も買いオペを行っていますか?
はい、アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)や欧州中央銀行(ECB)なども、景気悪化時には同様の政策を行います。
たとえば、2020年のコロナショックでは、各国が大規模な国債・社債の買い入れを実施し、市場を安定させました。
ただし、各国の経済規模や金融制度によって手法や規模は異なります。
Q6:最近の買いオペの動きはどうなっていますか?
2023年以降、日銀は「長短金利操作(YCC)」の柔軟化を進めており、長期金利の上昇を抑えるために必要に応じて買いオペを実施しています。
以前のように定期的に大量購入するスタイルではなく、市場の動きに応じて機動的に行うのが最近の特徴です。
まとめ:買いオペの意義と今後の展望
買いオペとは、日本銀行が行う金融政策の中でも中心的な役割を担う手段です。
市場に資金を供給し、金利を下げることで景気を刺激し、デフレ脱却や物価の安定を目指す重要な方法として機能してきました。
今後は、長引く金融緩和の中で「どのタイミングで政策を正常化するか」が大きな課題です。
景気回復を支えつつ、インフレや市場の歪みを防ぐために、日銀は慎重にバランスを取りながら買いオペの規模や頻度を調整していく必要があります。
免責事項: この資料は一般的な情報提供のみを目的としており、信頼できる財務、投資、その他のアドバイスを意図したものではなく、またそのように見なされるべきではありません。この資料に記載されている意見は、EBCまたは著者が特定の投資、証券、取引、または投資戦略が特定の個人に適していることを推奨するものではありません。