公開日: 2025-12-13
コンコルド効果とは、すでに使ってしまったお金・時間・労力(=埋没費用/サンクコスト)にとらわれて、合理的にはやめるべき状況でも決断を先延ばししてしまう心理現象のことです。
「ここまで投資したのにもったいない」
「今やめたら全部ムダになる」
という気持ちが強くなり、結果として損失を拡大し、非効率な行動を続けてしまいます。
行動経済学では非常に代表的なバイアスとされ、投資、ビジネス、日常のあらゆる場面で起こりやすい典型例として知られています。
名前の由来:コンコルド旅客機の失敗プロジェクト
コンコルド効果という名称は、英仏共同開発の超音速旅客機「コンコルド(Concorde)」 のプロジェクトに由来しています。
1960年代、フランスとイギリスは次世代の航空技術として、マッハ2で飛ぶ超音速旅客機の開発 に挑みました。
しかし
開発費は当初計画を大幅に超過
燃費の悪さや騒音問題で商業的に成功する見通しが低下
さらにオイルショックも重なり、収益性の期待はほぼゼロに近づいた
にもかかわらず、両政府はプロジェクトを中止せず、「ここまで巨額の資金を投じたのだから、今さら止められない」という心理により開発を続行しました。
最終的にコンコルドは運航されたものの、採算はまったく取れず、巨額の赤字を生む典型的な「サンクコスト(埋没費用)の罠」 として語り継がれています。
この歴史的背景から、「合理的に撤退すべき状況でも、投じた費用に引きずられて続けてしまう現象」を「コンコルド効果(Concorde Effect)」と呼ぶようになりました。

なぜコンコルド効果が起きるのか
コンコルド効果が生じる大きな理由は、人間の意思決定が必ずしも合理的ではなく、強い心理的影響を受けるためです。まず、最も大きな要因となるのが サンクコストの呪縛 です。すでに支払ったお金や費やした時間は取り戻せないにもかかわらず、「ここまで投資したのだから、今さらやめられない」という気持ちが意思決定を縛ってしまいます。
さらに、認知的不協和 と呼ばれる心理も働きます。自分が過去に下した決断が間違いだったと認めることは精神的な負担が大きいため、「この選択は正しかったはずだ」と自分を納得させるために、非合理的にプロジェクトを続けてしまうことがあります。
加えて、自尊心の維持や周囲からの評価低下への恐れ も強い影響を持ちます。特にビジネスや投資の現場では、撤退の決断は「失敗の認め」と捉えられることがあり、責任者ほど判断を先延ばしにしやすくなります。
また、多くの人が抱えがちな 「ここまでやったのにもったいない」という感情 も、コンコルド効果を加速させる要因です。この「もったいない」精神が、合理的な撤退判断を妨げてしまいます。
最後に、社会的プレッシャー も無視できません。プロジェクトの責任者や投資家は、周囲や組織から期待されていること、メンツの問題などから簡単に中止を決断できないことが多く、結果として非効率な継続につながります。
このように複数の心理要因が複雑に絡み合い、人は「やめるべきだと頭では分かっていても続けてしまう」というコンコルド効果に陥りやすくなるのです。
コンコルド効果が出やすい場面
コンコルド効果とは、ビジネスや投資のような大きな決断だけでなく、日常生活のさまざまな場面でも発生します。
まずビジネスの世界では、採算の取れない事業に追加投資を続けてしまう例が典型的です。すでに多額の資金や人員を投入したという理由だけで、撤退を決断できず、赤字が拡大していくケースが後を絶ちません。また、本来は中止すべきプロジェクトであっても、「途中でやめるとこれまでの努力が無駄になる」という心理が働き、継続判断が下されがちです。
投資の場面でも、コンコルド効果は非常に顕著です。たとえば、含み損を抱えた銘柄に対して「いずれ戻るはずだ」と考え、買い増しを繰り返してしまう行動もその一つです。また、設定していた損切りラインをすでに超えてしまっていても、「今やめたら損が確定してしまう」という心理から、撤退を先延ばしにしてしまうことがあります。こうした判断は合理性よりも感情に基づいており、結果として損失をさらに広げることにつながります。
恋愛や人間関係でも、時間をかけて築いてきた関係を理由に、別れたほうが良いと分かっていても関係を続けてしまうという現象が見られます。「ここまで一緒にいたのに手放すのはもったいない」という気持ちが、状況を悪化させることもあります。
さらに、日常生活にもコンコルド効果は潜んでいます。たとえば、ほとんど使っていないサブスクリプションサービスを「もったいないから」と解約できずにそのまま払い続けてしまうことがあります。また、使わない物を捨てられずに保管し続けるのも同じ心理です。購入した金額や思い入れに縛られ、合理的な判断ができなくなる典型例といえます。
このように、コンコルド効果は特別な状況だけで発生するわけではなく、私たちの日常のあらゆる場面に影響を及ぼす、非常に身近な心理現象なのです。
コンコルド効果を避ける方法
コンコルド効果を避けるためには、まず第一に サンクコストを意思決定に含めない姿勢 が重要です。すでに支払った費用や費やした時間は取り戻せないため、今後どうするべきかの判断材料にはなりません。「過去ではなく、未来のメリットで判断する」ことを常に意識するだけで、非合理な継続を防ぎやすくなります。
次に効果的なのは、あらかじめ 損切りライン(撤退基準)を設定しておくこと です。投資でいえば株価が一定のラインを下回ったら撤退する、ビジネスであれば収益改善の期限を定めるといった仕組みがこれに当たります。事前に決めたルールがあれば、感情に流されにくくなり、冷静な判断が可能になります。
また、定期的に 利益や損失を客観的に再評価する習慣 も重要です。プロジェクトや投資の状況をデータに基づいて分析し、「今から続ける価値があるのか」を見直すことで、思い込みや期待に引きずられにくくなります。
さらに、判断に迷ったときは 第三者の意見を取り入れること が有効です。自分だけでは気づけない視点を提供してもらえるため、心理的バイアスに気づくきっかけになります。特にビジネスでは外部コンサルタントや同僚の意見が意思決定の質を高めてくれます。
最後に、コンコルド効果を根本から防ぐためには、感情ではなくデータで判断する仕組みをつくること が不可欠です。定量的な基準やチェックリスト、評価システムを導入することで、個人の感情や思い入れに左右されない環境を整えられます。数字と事実に基づく意思決定が当たり前になれば、コンコルド効果に陥る可能性は大幅に減少します。
このように、事前のルール設定、データ分析、第三者の視点などを組み合わせることで、コンコルド効果を効果的に回避することができます。
結論
コンコルド効果とは、誰にでも起こりうる非常に身近な心理現象です。過去の投資や努力にとらわれず、感情よりも合理的な判断を優先する姿勢が重要になります。特に投資やビジネス、さらには人生の選択においては、「今後の利益がない」と判断した時点で適切に撤退できるかどうかが、損失を最小限に抑える鍵となります。合理的な撤退判断こそが、長期的な成功につながるというメッセージがコンコルド効果から得られる教訓です。
よくある質問(FAQ)
Q1. コンコルド効果とサンクコストの違いは何ですか?
サンクコストは「すでに支払って回収できない費用」のことを指します。一方、コンコルド効果は、そのサンクコストにとらわれて非合理的に物事を続けてしまう心理現象です。つまり、サンクコストが「原因」、コンコルド効果が「結果」と考えると分かりやすいです。
Q2. コンコルド効果は投資でどのように現れますか?
含み損が出ている株やFXポジションを「ここまで来たら戻るはず」と考えて持ち続け、損切りラインを超えても撤退できないときに現れます。過去の投資額に縛られ、合理的な判断ができなくなる典型例です。
Q3. 日常生活でもコンコルド効果は起きますか?
はい。ほとんど使っていないサブスクリプションを「もったいない」と思って解約できない、使わなくなった物を捨てられないなど、日常の多くの場面で発生します。誰にでも起こり得る身近な心理です。
Q4. コンコルド効果を防ぐ最も簡単な方法は?
A. 最も効果的なのは「事前に撤退基準を決めておくこと」です。投資なら損切りライン、ビジネスなら期限や成果指標を設定しておくことで、感情に流されずに判断ができます。
Q5. コンコルド効果は必ず悪いものなのでしょうか?
A. 基本的には非合理的な判断を招くため避けるべきですが、“長期的な継続こそ価値になる分野”(研究開発、スポーツ、芸術など)では、粘り強さが成果に結びつく場合もあります。ただし、「過去に投資したから続ける」という理由だけで行動すると危険であり、継続の理由が未来のメリットに基づいているかを常に確認することが重要です。
免責事項: この資料は一般的な情報提供のみを目的としており、信頼できる財務、投資、その他のアドバイスを意図したものではなく、またそのように見なされるべきではありません。この資料に記載されている意見は、EBCまたは著者が特定の投資、証券、取引、または投資戦略が特定の個人に適していることを推奨するものではありません。